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「はし姫」(題箋)

  そのころ世にかすまへられ給はぬふる宮
0001【そのころ】-八宮△居時分をいふへし
0002【かすまへられ給はぬ】-桐壺御門の御子の数にかすへ△(△#
ラ)れ給ハぬとなり
  おハしけりはゝかたなともやんことなくもの
0003【はゝかたなとも】-左大臣の女と見えたり
  したまひてすちことなるへきおほえなと
  おはしけるをときうつりて世中にはした
0004【はしたなめられ】-半の心なり
  なめられ給けるまきれに中/\いとなこりな
  く御うしろミなともものうらめしき心/\
  にてかた/\につけて世越そむきさりつゝ
  おほやけわたくしにより所なくさしは(△&
は)
  なたれ給へるやうなりきたのかたもむか
0005【きたのかた】-姫ー母
  しの大臣の御むすめなりけるあハれにこゝ」(1オ・1507⑥)

  ろほそくおやたちのおほしをきてたり
0006【おやたち】-北方ノ
  しさまなとおもひいて給ふにたとしへなき
  事おほかれとふるき御契のふたつなき
  はかりをうき世のなくさめにてかたミに
  又なくたのミかはし給へりとしころふるに
  御こものし給ハて心もとなかりけれハさう/\
  しくつれ/\なるなくさめにいかておかし
  からむちこもかなと宮そとき/\おほし
0007【宮】-八宮
  のたまひけるにめつらしく女君のいとうつ
0008【女君】-上巻之君
  くしけなるむまれ給へりこれをかきり」(1ウ・1507⑪)

  なくあハれとおもひかしつきゝこえ給に
  しつゝきけしきはみ給ひてこのたひ
  ハおとこにてもなとおほしたるにおなしさま
0009【おなしさまにて】-中君誕生事
  にてたひらかにハしたまひなからいといた
  くわつらひてうせ給ぬ宮あさましうお
0010【うせ給ぬ】-北方御事
  ほしまとふありふるにつけてもいとはし
0011【ありふるにつけても】-北方誕生事
  たなくたへかたき事おほかる世なれと
  すてかたくあハれなる人の御ありさま心
  さまにかけとゝめらるゝほたしにてこそす
  くしきつれひとりとまりていとゝすさま」(2オ・1508②)

  しくもあるへきかないはけなき人/\をも
  ひとりはくゝみたてむほとかきりある身に
  ていとおこかましう人わろかるへきことゝお
  ほしたちてほひもとけまほしうしたま
  ひけれとみゆつるつる(つる
かた<朱>、つる#<墨>)なくてのこしとゝめむ
  をいみしうおほしたゆたひつゝとし月
  もふれハをの/\およすけまさり給ふさま
0012【およすけまさり給ふ】-姫君達の御事
  かたちのうつくしうあらまほしき越明く
  れの御なくさめにてをのつから見すくし
  給後にむまれ給し君をはさふらふ人/\も」(2ウ・1508⑧)

  いてやおりふし心うくなとうちつふやき
0013【いてや】-さてもなといふ詞なり
0014【心うくなと】-古今 いて我を人なと
  て心にいれてもあつかひきこえさりけれと
  かきりのさまにてなに事もおほしわか
  さりしほとなからこれをいと心くるしとおも
  ひてたゝこの君をかた身に見給ひて
0015【たゝこの君を】-北方の遺言
  あハれとおほせとハかりたゝひとことなむ宮
  にきこえをきたまひけれハさきの世の契
  もつらきおりふしなれとさるへきにこそハ
  ありけめといまはとみえしまていとあハれと
  思ひてうしろめたけにのたまひしをと」(3オ・1508⑬)

  おほしいてつゝこの君をしもいとかなし
  うしたてまつりたまふかたちなむまことに
  いとうつくしうゆゝしきまてものし給
  けるひめ君ハ心はせしつかによしあるかた
  にてみるめもてなしもけたかく心にくきさま
  そし給へるいたハしくやむことなきすち
0016【やむことなきすち】-いもうと姫君の事也
  ハまさりていつれをもさま/\におもひかしつ
  ききこえ給へとかなハぬ事おほくとし月
  にそへて宮のうちも(も
<朱>)さひしくのミなりま
  さるさふらひし人もたつきなき心ちす」(3ウ・1509④)

  るにえしのひあへすつき/\にしたかひて
  まかてちりつゝわか君の御めのともさるさ
0017【わか君】-妹
  はきにはか/\しき人をしもえりあへ
  給ハさりけれハほとにつけたる心あさゝにて
0018【心あさゝにて】-騒きによりて心のかは(△△&
かは)るをいへり
  をさなきほと越みすてたてまつりに
  けれハたゝ宮そはくゝみ給ふさすかに
0019【はくゝみ】-養育<ハクヽム> 省同
  ひろくおもしろき宮のいけ山なとのけし
  きハかりむかしにかハらていといたうあれまさる
  をつれ/\となかめ給ふけいしなともむね
0020【けいし】-家司
  むねしき人もなきまゝに草あをや」(4オ・1509⑩)

  かにしけり軒のしのふそ所えかほにあ越
  みわたれるおり/\につけたる花もみちの色
  をもかをもおなし心に見はやし給ひし
  にこそなくさむこともおほかりけれいとゝ
  しくさひしくよりつかむかたななきまゝ
  にち仏の御かさりはかりをわさとせさせ給て
  あけくれおこなひ給かゝるほたしともにかゝ
  つらふたにおもひのほかにくちおしうわか
  心なからもかなはさりける契とおほゆるを
  まひてなにゝ(ゝ#
)か世の人めいていまさらにとのミ」(4ウ・1510①)

  とし月にそへて世中をおほしはなれつゝ
  心ハかりハひしりになりはてたまひて
  君のうせたまひにしこなたハれいの人の
  さまなる心はえなとたハふれにてもおほ
  しいて給ハさりけりなとかさしもわかるる
  ほとのかなしひハまた世にたくひなきやう
  にのミこそハおほゆへかめれとありふれハさの
  みやハ猶世人(△&
人)になすらふ御心つかひをし
  給ひていとかくみくるしくたつきな
  き宮のうちもをのつからもてなさるゝ」(5オ・1510⑥)

  わさもやと人ハもとききこえてなにくれ
  とつき/\しくきこえこつこともるる(る
<朱>)に
  ふれておほかれときこしめしいれさりけり
  御念すのひま/\にハこの君たちをもてあ
  そひやう/\およすけ給へハことならハし
  うちへんつきなとはかなき御あそひわさ
0021【へんつき】-篇突
  につけても心はへとも越みたてまつり給ふに
  ひめ君ハらう/\しくふかくおもりかにみえ
  たまふわか君ハおほとかにらうたけなる
  さましてものつゝミしたるけハひにいとうつ」(5ウ・1510⑫)

  くしうさま/\におハす春のうらゝかなる
  日かけに池の水とりとものはねうちかハし
  つゝをのかしゝさえつるこゑなと越つねハ
  はかなきことにみたまひしかともつか
  ひはなれぬをうらやましくなかめ給ひ
  て君たちに御ことゝもをしへきこえた
  まふいとおかしけにちひさき御ほとにとり
  とりかきならし給ふものゝねともあハれに
  おかしくきこゆれハ涙をうけたまひて
    うちすてゝつかひさりにし水とりの」(6オ・1511④)
0022【うちすてゝ】-宇治宮

  かりのこの世にたちをくれけん心つくしなり
0023【かりのこ】-鴨子の事也
0024【この世に】-子によせたり
0025【心つくしなり】-うつほ第二 かひの中に命こめたるかりの子ハ君かやとにそかへさゝらなん
  やとめをしのこひ給かたちいときよけに
  おハします宮なりとし比の御おこなひに
  やせほそり給にたれとさてしもあてに
  なまめきて君たちをかしつき給ふ御心
  はえにな越しのなえはめるをき給ひて
  しとけなき御さまいとはつかしけ也ひめ
0026【ひめ君】-姉
  君御すゝりをやをらひきよせててな
  らひのやうにかきませ給ふをこれにかき
  給へすゝりにはかきつけさなりとてかミた」(6ウ・1511⑨)
0027【すゝりにはかきつけさなり】-硯をハ文殊のまなこといへり みる石の面に物ハかゝさりきふしの楊枝ハつかハさらめや 菅

  てまつり給へハはちらひてかきたまふ
    いかてかくすたちけるそと思ふにもうき
0028【いかてかく】-姉君
0029【うき水とり】-身によせたり
  水とりの契をそしるよからねとその
  おりハいとあ(あ+
ハ)れなりけりてハおいさきみえて
  またよくもつゝけ給はぬほと也わか君とか
0030【わか君】-妹
  きたまへとあれハいますこしおさなけに
  さしくかきいて給へり
    なく/\もはねうちきする君なくハ
0031【なく/\も】-中君
  我そすもりになりハはてまし御そとも
0032【すもりになりハはてまし】-拾七 鳥の子ハまたひななから立ていぬかいのみゆるハすもりなりけり
  なとなえはみておまへにまた人も」(7オ・1512①)

  なくいとさひしくつれ/\けなるにさま/\
  いとらうたけにてものしたまふをあハれに
  心くるしういかゝおほさゝらん経をかたてにも
  たまいてかつよミつゝさうかをし給ひめ
0033【さうか】-昌歌
  君にひわわか君にさうの御ことまたおさな
  けれとつねにあハせつゝならひ給へハきゝに
  くゝもあらていとおかしくきこゆちゝみかと
0034【ちゝみかとにも】-これよりハ昔の事をいへり
  にも女御にもとくをくれきこえ給ひてはか
  はかしき御うしろみのとりたてたるおはせ
  さりけれハさゑなとふかくもえならひた」(7ウ・1512⑥)

  まハすまいて世中にすミつく御心をきてハ
  いかてかハしりたまハむたかき人ときこゆ
  るなかにもあさましうあてにおほとかなる
  女のやうにおはすれハふるき世の御たから
  物おほちおとゝの御そうふんなにやかやと
0035【おほちおとゝ】-母方大臣
  つきすましかりけれとゆくゑもなくはか
  なくうせはてゝ御てうとなとはかりなん
  わさとうるハしくておほかりけるまいりと
  ふらひきこえ心よせたてまつる人もなし
  つれ/\なるまゝにうたつかさのものゝしとも」(8オ・1512⑫)
0036【うたつかさ】-雅楽司<ウタツカ>
0037【ものゝしとも】-琴笛等

  なとやうのすくれたるをめしよせつゝはか
  なきあそひに心をいれておいゝて給へれ
  ハそのかたハいとおかしうすくれたまへり源氏
  のおとゝの御おとうとにおハせしをれせい
0038【おとゝ】-藤なり
  院の東宮におハしましゝときすさく院
  のおほきさきのよこさまにおほしかまへて
0039【おほきさき】-二条
  の宮を世中にたちつき給ふへくわか御と
  きもてかしつきたてまつりけるさハきに
  あひなくあなたさまの御なからひにハさし
0040【あなたさまの】-源氏
  はなたれ給ひにけれハいよ/\かの御つき/\に」(8ウ・1512③)

  なりはてぬる世にてえましらひ給ハす
  またこのとしころかゝるひしりになり
  ハてゝいまハかきりとよろつをおほしすて
  たりかゝるほとにすみ給ふ宮やけにけ
0041【宮やけにけり】-焼失事
  りいとゝしきよにあさましうあえなく
  てうつろひすミ給ふへき所のよろしき
  もなかりけれハうちといふところによしある
0042【うちといふところに】-移住宇治事
  山さともたまへりけるにわたり給ふおもひ
  すてたまへるよなれともいまハとすミは
  なれなんをあハれにおほさるあしろのけ」(9オ・1513⑧)

  ハひちかくみゝかしかましき川のわたりに
  てしつかなる思ひにかなハぬかたもあれと
  かゝハせむ花もみち水のなかれにも心をや
  るたよりによせていとゝしくなかめ給よ
  りほかのことなしかくたえこもりぬる野
  山のすゑにもむかしの人ものし給ハましか
0043【むかしの人】-北方
  ハとおもひきこえたまハぬおりなかりけり
    みし人も宿もけふりになりにしを
0044【みし人も】-宇治宮
  なにとて我身きえのこりけんいけるかひ
0045【いけるかひなく】-<朱合点> 大和 雲井にてよそふる比ハ五月雨のあめの下ニそいけるかひなき
  なくそおほしこかるゝやいとゝ山かさなれる」(9ウ・1513⑭)
0046【山かさなれる】-六帖五 月よミの光ニきませ足引の山かさなりてと越からなくに

  御すみかにたつねまいる人なしあやしき
  下すなとゐなかひたる山かつとものミまれに
0047【まれになれまいりつかうまつる】-大和 しほかまの浦ニハ海人のたえニけんなと漁のみゆる時なき
  なれまいりつかうまつるみねのあさきりはる
0048【みねのあさきり】-<朱合点> 古今 かりのくる嶺の朝霧たえすのミ思つきせぬ世中のうさ
  るおりなくてあかしくらしたまふにこのう
0049【うち山にひしりたちたるあさり】-喜撰隠居宇治山持密呪食松葉得仙道云々 古今 我庵ハ都
  ち山にひしりたちたるあさりすミけりさへ
  いとかしこくてよのおほえもかろからね
  とおさ/\おほやけことにもいてつかへす
  こもりゐたるにこの宮のかくちかきほとに
  すミ給てさひしき御さまにたうとき
  わさ越せさせ給つゝ法もんをよみならひ」(10オ・1514⑤)

  たまへハたうとかりきこえてつねにまいる
  としころまなひしり給へる事ともの
  ふかき心越とききかせたてまつりいよ
  いよこ(の&
こ)の世のいとかりそめにあちきなき
  こと越申しらすれハ心はかりハはちすの
0050【心はかりハ】-宇治宮詞
0051【はちすのうへ】-<朱合点> 拾遺 けふよりハ露の命もあしからす蓮の上の玉とちきれハ 実方 同 一たひも南無阿三陀仏といふ人の蓮のうへにのほらぬハなし 空也上人
  うへに思ひのほりにこりなき池にもすみ
  ぬへきをいとかくおさなき人/\をみすて
  むうしろめたさハかりになむえひたみち
  にかたちをもかへぬなとへたてなく物かたり
  し給このあさりハれせい院にもしたしく」(10ウ・1514⑪)

  さふらひて御経なとをしへきこゆる(きこゆる=奉る)人なり
  けり京にいてたるつゐてにまいりてれいのさ
  るへきふミなと御らむしてとハせ給ふことも
0052【ふみ】-文
  あるつゐてに八の宮のいとかしこくないけう
0053【八の宮の】-聖物語申
0054【ないけう】-内教
  の御さえさとりふかくものし給けるかなさるへ
  きにてむまれたまへる人にやものし給ら
  む心ふかく思ひすまし給へるほとまこと
  のひしりのをきてになむみえ給とき
  こゆいまたかたちハかへたまハすやそくひ
0055【いまたかたちは】-院御詞
0056【そくひしり】-東坡山谷なとも身つから有髪僧在家僧なと詩ニつくれり
  しりとかこのわかき人/\のつけたなる」(11オ・1515②)

  あハれなること也なとのたまハすさい相中
0057【さい相中将】-かほる大将の事也
  将も御前にさふらひ給てわれこそ世中
  をはいとすさましう思ひしりなからおこな
  ひなと人にめとゝめらるハかりハつとめす
  くちおしくてすくしくれと人しれすお
  もひつゝそくなからひしりになり給ふ心
  のをきてやいかにとみゝとゝめてきゝた
0058【いかにとみゝとゝめてきゝたまふ】-我身ニおもひくらへてきゝたまふ也
  まふ出家の心さしハもとよりものし給へる
0059【出家の心さしハ】-阿闍梨詞
  をはかなきことにおもひとゝこほりいまと
  なりてハ心くるしき女子ともの御うへを」(11ウ・1515⑦)

  えおもひすてぬとなんなけき侍りたまふ
  とそうすさすかにものゝねめつるあさりに
  てけにはたこのひめ君たちのことひき
  あはせてあそひ給へる河なミにきをひて
  きこえ侍ハいとおもしろくこくらく思ひ
0060【こくらく思ひやられ】-[辷-一+景]迹也すくれたる心ニいへり
  やられ侍やとこたいにめつれはみかと
0061【こたい】-古代也
0062【みかと】-冷院号後経言也
  ほゝゑみ給ひてさるひしりのあたりに
  おひいてゝこのよのかたさまハたと/\しか
  らむ(む+
と)おしはからるゝをおかしのことや
  うしろめたくおもひすてかたくもてわつ」(12オ・1515⑫)

  らひ給らんをもししハしもをくれむほと
  ハゆつりやハしたまはぬなとそのたまハする
  この院のみかとハ十のみこにそおハしましける
0063【院のみかと】-冷
0064【十のみこ】-ウ
  すさく院のこ六条院にあつけきこえ給し
  入道の宮の御ためしをお(/\&
お)もほしいてゝ
0065【入道の宮】-女三宮御事
  の君たちをかなつれ/\なるあそひか
  たきになとうちおほしけり中将君中/\
0066【中将君】-かほる御事
  みこのおもひすましたまへらむ御心はえ
0067【みこ】-八宮
  をたいめむしてみたてまつらハやとおもふ
  心そふかくなりぬるさてあさりのかへりいる」(12ウ・1516④)

  にもかならすまいりて物ならひきこゆへく
  つうち/\にもけしき給ハりたまへなと
  たらひたまふみかとの御ことつてにてあハれ
0068【みかとの御ことつて】-院遣状於宇治宮事
  なる御すまゐを人つてにきくことなと
  きこえたまうて
    世をいとふ心ハ山にかよへともやへたつ
0069【世をいとふ】-院御門
  雲を君やへたつるあさりこの御つかひ
  をさきにたてゝかの宮にまいりぬなのめ
  なるきハのさるへき人のつかひたにまれ
  なる山かけにいとめつらしくまちよろこひ」(13オ・1516⑨)

  給て所につけたるさかななとしてさるかた
  にもてはやし給御返し
    あとたえて心すむとハなけれとも世
0070【あとたえて】-宇治宮
  をうち山にやとをこそかれひしりのかた
0071【ひしりのかた】-院の御心中
  をハひけしてきこえなし給へれハ猶よに
  うらみのこりけるといとおしく御らむす
  あさり中将のたうしむふかけにものし給
0072【中将のたうしむふかけに】-聖物語
  ふなとかたりきこえて法文なとの心えま
0073【法文なとの心えまほしき心さし】-宰相中将道心事
  ほしき心さしなんいはけなかりしよはひ
  よりふかくおもひなからえさらすよにあり」(13ウ・1517①)

  ふるほとおほやけわたくしにいとまなく
  あけくらしわさととちこもりてならひよミ
  おほかたはか/\しくもあらぬ身にしも
  世中をそむきかほならむもはゝかるへき
  にあらねとをのつからうちたゆミ(ミ+
て)まきら
  ハしくてなむすくしくる越いとありかたき
  御ありさまをうけたまハりつたへしより
  かく心にかけてなんたのミきこえさするな
  とねむころに申給ひしなとかたりきこ
  ゆ宮よのなかをかりそめのことゝおもひとり(△△△△&
おもひとり)」(14オ・1517⑥)
0074【宮】-返答

  いとハしき心のつきそむる事もわか
  身にうれへあるときなへての世もうらめ
  しう思ひしるはしめありてなん道心もおこ
  るわさなめるをとしわかく世中おもふに
  かなひなにこともあかぬことハあらしとお
  ほゆる身のほとにさはた後の世をさへた
  とりしり給らんかありかたさこゝにはさへき
  にやたゝいとひはなれよとことさらに仏
  なとのすゝめおもむけたまふやうなるあり
  さまにてをのつからこそしつかなる思ひかな」(14ウ・1517⑪)

  ひゆけとのこりすくなき心ちするにはか/\
  しくもあらてすきぬへかめるをきしかたゆく
  すゑさらにえたる所なくおもひしらるゝ
  をかへりてハ心はつかしけなる法のともに
0075【ともに】-友なり
  こそハものし給なれなとのたまひてかたミ
  に御せうそこかよひみつからもまうて給ふ
  けにきゝしよりも(△&
も)あハれにすまひたまへる
0076【けにきゝしより】-かほる心中
0077【きゝしよりもあはれにすまひたまへるさま】-宰相中将対面宮事
  さまよりはしめていとかりなる草のいほり
  におもひなしことそきたりおなしき山さ
  とゝいへとさるかたにて心とまりぬへくのと」(15オ・1518③)

  やかなるもある越いとあら(ら<朱>)ましき水の
  をとなミのひゝきにものわすれうちし
  よるなと心とけて夢を(を<朱>、を&を<墨>)たにみるへきほと
  もなけに
すこくふきはらひたりひしり
  たちたる御ためにかゝるしもこそ心とま
  らぬもよほしならめ女君たちなに心ちし
  てすくし給らむよのつねの女しくなよひ
  たるかたハと越くやとおしはからるゝ御
  ありさまなり仏の御へたてにさうしハかり
  をへたてゝそおはすへかめるすき心あらむ」(15ウ・1518⑧)

  人ハけしきはミよりて人の御心はえをも
  みまほしうさすかにいかゝとゆかしうもある
  御けハひなりされとさるかた越おもひはなる
0078【さるかた越】-好色の方の事なり
  るねかひに山ふかくたつねきこえたるほひ
  なくすき/\しきなをさりこと越うち
  いてあされはまむもことにたかひてやなと
  おもひかへして宮の御ありさまのいとあハれ
  なるをねむころにとふらひきこえたま
  ひたひ/\まいり給ひつゝおもひしやうに
  うはそくなからおこなふ山のふかき心法」(16オ・1518⑬)
0079【うはそく】-仏の四部の弟子の其一也 賀茂役公小角<エノキミヲス>年卅二にして家をはなれかつらき山へ入てをこないし人也 役優婆塞となつく山伏の行ハ是よりはしまれりとなん 六帖 うハそくかおこなふ山のしゐか本あなそハ/\しとこにしあらねハ

  もんなとわさとさかしけにはあらていとよく
0080【いとよくのたまひしらす】-中将与宮法談事
  のたまひしらすひしりたつ人さえあるほう
  しなとハよにおほかれとあまりこは/\しう
  けと越けなるしうとくのそうつそう正の
0081【しうとく】-宿徳
  きはゝ世にいとまなくきすくにても(△&
も)のゝ心
  をとひあらハさむもこと/\しくおほえ
  たまふまたその人ならぬ仏の御てしの
  いむこと越たもつハかりのたうとさはあれと
  けハひいやしくこと葉たミてこちなけに
0082【こちなけに】-無骨也
  ものなれたるいとものしくてひるハおほや」(16ウ・1519④)

  けことにいとまなくなとしつゝしめやかなる
  よひのほとけちかき御まくらかミなとに
  めしいれかたらひ給ふにもいとさすかに物む
  つかしうなとのミあるをいとあてにこゝろく
  るしきさましてのたまひいつることの葉
  もおなし仏の御をしへをもみゝちかき
  たとひにひきませいとこよなくふかき御
  さとりにハあらねとよき人ものゝ心をえ
0083【よき人】-たときをいふ
  たまふかたのいとことにものしたまひけれ
  はハやう/\みなれたてまつり給たひことに」(17オ・1519⑩)

  つねにみたてまつら(ら+ま)ほしうていとまなくなと
  して程ふるときハ恋しくお(△△△&
しくお)ほえ給この
0084【この君】-中将をいへり
  君のかくたうとかりきこえたまへれは
  れせい院よりもつねに御せうそこなとあり
  てとしころをとにもおさ/\きこえ給ハす
  さひしけなりし御すミかやう/\人めみる
  とき/\あり(り
おり<朱>、おりおり<墨>)ふしにとふらいきこえ給こといか
  めしうこの君もまつさるへき事につけ
0085【この君】-かほる
  つゝおかしきやうにもまめやかなるさま
  にも心よせつかうまつり給こと三年ハかりに」(17ウ・1520①)

  なりぬ秋のすゑつかた四(四<朱>)きにあてゝし給
0086【四きにあてゝ】-宮ー
  念仏をこの河つらハあしろのなミもこの
  ころハいとゝみゝかしかましくしつかならぬを
  とてかのあさりのすむ寺のたうにうつろ
0087【すむ寺】-今の橋寺辺歟
0088【うつろひたまひて】-宮ー
  ひたまひて七日のほとおこなひ給ふひめ
  君たちはいと心ほそくつれ/\まさりて
  なかめ給けるころ中将の君ひさしくまいら
0089【中将の君ひさしくまいらぬかなと】-薫 中将向宇治事
  ぬかなと思ひいてきこえ給けるまゝにあり
  明の月のまた夜ふかくさしいつるほとにいて
  たちていとしのひて御ともに人なともなく」(18オ・1520⑦)

  てやつれておハしけり川のこなたなれハ
  舟なともわつらハて御馬にてなりけり
  いりもてゆくまゝに霧ふたかりて道も見
  えぬしけきの中をわけ給ふにいとあらま
0090【しけきの中を】-しけ木中 親行語
  しき風のきほひにほろ/\(/\
<朱>、<墨>)おちみたるゝ
  木葉の露のちりかゝるもいとひやゝかに人
  やりならすいたくぬれ給ひぬかゝるあり
  きなともおさ/\ならひたまハぬ心ちに
  心ほそくおかしくおほされけり
    山おろしにたえぬこの葉の露よりも」(18ウ・1520⑫)
0091【山おろしに】-薫大将

  あやなくもろき我涙かな山かつのおとろ
0092【我涙かな】-俊成卿此哥によりて嵐吹嶺の木葉の
  くもうるさしとてすいしんのをともせさ
  せ給ハすしはのまかきをわけつゝそこは
0093【しはのまかき】-柴
  かとなき水のなかれとも越ふミしたくこま
0094【ふみしたく】-踏
  のあしをとも猶しのひてとようひし給
  へるにかくれなき御にほひそ風にしたかひ
  てぬししらぬかとおとろくねさめの家々あ
0095【ぬししらぬかと】-<朱合点> 古今 主しらぬ香こそにほへれ秋のゝニ誰ぬきかけし藤袴そも
  りけるちかくなるほとにそのことゝもきゝ
  わかれぬものゝねともいとすこけにきこ
  ゆつねにかくあそひたまふときく越ついて」(19オ・1521③)

  なくてみやの御ことのねのなたかきもえ
0096【みやの御ことのね】-中将聞比巴箏事
  きかぬそかしよきおりなるへしとおもひ
  つゝいり給へハひわのこゑのひゝきなりけり
  わうしきてうにしらへてよのつねの
  かきあはせなれと所からにやみゝなれぬ
  心ちしてかきかへすはちのおとも物きよ
  けにおもしろしさうのことあハれになまめひ
  たるこゑしてたえ/\きこゆしハしきか
  まほしきにしのひ給へと御けハひしるくき
  きつけてとのひ人め(め+
く)おのこなまかたくなし」(19ウ・1521⑨)

  きいてきたりしか/\なんこもりおハします
0097【しか/\なん】-とのゐ人の詞
  御せうそこをこそきこえさせめと申す
0098【なにかしかかきりある】-かほるの詞
  にかしかかきりある御おこなひの程をまき
  らハしきこえさせむにあひなしかくぬ
  れぬれまいりていたつらにかへらむうれへを
  ひめ君の御かたにきこえてあハれとの給
  はせハなむなくさむへきとのたまへハ
  にくきかほうちゑミて申させ侍らむとて
0099【うちゑミて】-とのい人
  たつをしハしやとめしよせてとしころ
0100【しハしやと】-かほる
  人つてにのミきゝてゆかしくおもふ御こと」(20オ・1521⑭)

  のねともをうれしきおりかなしハしす
  こしたちかくれてきくへきものゝくまあ
  りやつきなくさしすきてまいりよらむ
  ほとみなことやめ給ひてハいとほひなか
  らんとの給御けハひかほかたちのさるな
0101【御けはひかほかたちの】-とのゐ人の心中詞なり
  をなをしき心ちにもいとめてたくかた
  しけなくおほゆれハ人きかぬときハあけ
  くれかくなんあそハせとしも人にても宮
  このかたよりまいりたちましる人侍ると
  きハをともせさせ給はすおほかたかくて」(20ウ・1522⑤)

  女たちおハしますことをはかくさせ給ひ
  なへての人にしらせたてまつらしとおほ
  しのたまハするなりと申せハうちわらひ
0102【うちわらひて】-かほる
  てあちきなき御ものかへ(へ
<朱>)しな(な<朱>)りしかし
  のひ給ふなれとみな人ありかたき世のた
  めしにきゝいつへかめるをとの給てな越
  しるへせよわれハすき/\しき心なとな
  き人そかくておハしますらむ御ありさ
  まのあやしくけになへてにおほえ給
  ハぬなりとこまやかにのたまへハあなかし」(21オ・1522⑩)
0103【あなかしこ】-とのゐ人

  こ心なきやうに後のきこえや侍らむとて
  あなたの御まへハたけのすいかひしこめて
  ミなへたてことなるをゝしへよせたてまつ
  れり御ともの人ハにしのらうによひすへて
  このとのゐ人あひしらふあなたにかよふへ
  かめるすひかひのとをすこしをしあけ
  て見給へハ月おかしきほとに霧わたれる
  をなかめてすたれをみしかくまきあけて
  人/\ゐたりすのこにいとさむけに身ほ
  そくなえはめるわらハひとりおなしさ」(21ウ・1523①)

  まなるおとななとゐたりうちなる人一
0104【うちなる人】-姫ー
  人はしらにすこしゐかくれてひはをま
  へにをきてはちをてまさくりにし
  つゝゐたるに雲かくれたりつる月のにハ
  かにいとあかくさしいてたれハあふきなら
0105【あふきならて】-姫君
  てこれしても月ハまねきつへかりけり
  とてさしのそきたるかほいみしくらうた
0106【さしのそきたる】-姫
  けににほいやかなるへしそひふしたる
  人ハことのうへにかたふきかゝりている日を
0107【いる日をかへすはち】-
<朱合点> 返日撥事 女房答 還城楽陵王ニ入日ヲカヘス撥アリ
  かへすはち
そありけれさまことにもおも」(22オ・1523⑥)

  ひをよひ給ふ御心かなとてうちわらひた
  るけハひいますこしおもりかによしつき
  たりをよハすともこれも月にはなるゝ
0108【をよはすともこれも】-又姫君隠月の事をおもひよせ侍る心詞なり
  物かはなとはかなきこと越うちとけの給
  かハしたるけはひともさらによそに思ひ
  やりしにハにすいとあはれになつかしう
  おかしむかし物かたりなとにかたりつたへ
0109【むかし物かたりなとに】-住吉物語 姫君の琴引給ふを中将きゝつけ侍る事みえたり 又うつほ第四 月おもしろき夕暮ハ君いま宮ひめ宮みす巻あけて琴とも引あはせあそひ給ふ事あり
  てわかき女房なとのよむをもきくに
  かならすかやうの事をいひたるさしもあ
  らさりけむとにくゝおはしからるゝをけ」(22ウ・1523⑪)

  にあハれなる物のくまありぬへき世なりけり
0110【物のくま】-かくれなり
  と心うつりぬへしきりのふかけれハさや
  かにみゆへくもあらす又月さしいてなんと
  おほすほとにおくのかたより人おハすと
  つけきこゆる人やあらむすたれおろし
  てミないりぬおとろきかほにハあらす
  こやかにもてなしてやをらかくれぬるけ
  ハひともきぬのを(△&
を)ともせ(△&せ)すいとなよら
  かに心くるしくていみしうあてにみやひ
  かなるをあはハれとおもひ給ふやをらいて(△△&
いて)」(23オ・1524②)

  て京に御車ゐ(ゐ=<モテ>)てまいるへく人ハしらせ
0111【御車ゐて】-薫
  つあり(あり=0かはし)つるさふらひにおりあしくまいり
0112【さふらひに】-かほる消息し給ふ
0113【おりあしく】-折 悪
  侍にけれと中/\うれしくおもふことすこし
  なくさめてなむかくさふらふよしきこえ
  よいたうぬれにたるかこともきこえさせむ
  かしとのたまへハまいりてきこゆかくみえや
0114【まいりてきこゆ】-とのゐ人つけたてまつる也
0115【かくみえやしぬらんとハ】-姫君
  しぬらんとハおほしもよらてうちとけたり
  つる事ともをきゝやしたまひつらむと
  いといみしくはつかしあやしくかうはし
  くにほふ風の吹つるをおもひかけぬほと」(23ウ・1524⑧)

  なれはおとろかさりける心をそさよと
  もまとひてはちをハさうす御せうそこな
  とつたふる人もいとうゐ/\しき人なめる
  をおりからにこそよろつのこともとおほひ
  てまた霧のまきれなれハありつるみすの
  まへにあゆミいてゝつゐい給ふ山さとひたる
  わか人ともハさしいらへむことのはもお
  ほえて御しとねさしいつるさまもたと/\
  しけなりこのみすのまへにははしたなく
  侍りけりうちつけにあさき心はかりにてハ」(24オ・1524⑬)
0116【うちつけに】-かほる詞

  かくもたつねまいるましき山のかけちに
0117【山のかけちに】-<朱合点> 古今 世ニふれハうさこそまされ三吉のゝ岩のかけ道ふミならしてん
  おもふ給ふるをさまことにこそかく露け
  きたひをかさねてハさりとも御らむし
  しるらむとなんたのもしう侍といとまめや
  かにの給わかき人/\のなたらかにもの
  きこゆへきもなくきえかへりかゝやかし
  けなるもかたハらいたけれハ女はらのおく
0118【女はら】-達の心なり原也 後撰詞衆僧はらなとある同事也
  ふかきをおこしいつるほとひさしく
  なりてわさとめひたるもくるしうて
0119【くるしうて】-姉宮通言事
  にこともおもひしらぬありさまにてしりかほ」(24ウ・1525④)

  にもいかゝハきこゆへくといとよしありあて
  なるこゑしてひきいりなからほのかにのた
  まふかつしりなからうきをしらすかほなる
0120【かつしりなから】-詞
  もよのさかとおもふたまへしる越ひとと
  ころしもあまりおほめかせ給らんこそくち
  おしかるへけれありかたうよろつをおもひ
  すましたる御すまゐなとにたくひき
  こえさせ給御心のうちハなにこともすゝし
0121【御心のうちハ】-<朱合点> 拾遺廿 さゝ浪やしかの浦かせいかはかり心のうちのすゝしかるらん 公任
  くをしはかられ侍れハ猶かくしのひあ
  まり侍ふかさあさゝのほともわかせ給ハん」(25オ・1525⑨)

  こそかひハ侍らめよのつねのすき/\しき
  すちにはおほしめしはなつへくやさやう
  のかたハわさとすゝむる人侍りともなひく
  へうもあらぬ心つよさになんをのつから
  こしめしあハするやうも侍りなんつれ/\
  とのミすくし侍よの物かたりもきこえ
  させ所にたのミきこえさせ又かく世はな
  れてなかめさせ給らん御心のまきらハし
  にハさしもおとろかさせたまふハかりきこえ
  なれ侍らハいかに思ふさまに侍らむなとおほ」(25ウ・1526①)

  くの給へハつゝましくいらへにくゝておこし
  つるおい人のいてきたるにそゆつりたまふ
0122【おい人のいてきたるに】-左女弁対面事 弁君といふ人なり左中弁女
0123【ゆつりたまふ】-姫ー
  たとしへなくさしすくしてあなかたしけ
0124【たとしへなく】-老人詞
  なやかたハらいたきおましのさまにも侍かな
  みすのうちにこそわかき人/\ハものゝほと
  しらぬやうに侍こそなとしたゝかゝにいふ
  こゑのさたすきたるもかたはらいたく
0125【さたすきたるも】-かほる心中
  たちハおほすいともあやしく世中に
0126【いともあやしく】-老人ノ詞
  すまゐ給人のかすにもあらぬ御ありさま
  にてさもありぬへき人/\たにとふらひかす」(26オ・1526⑥)

  まへきこえ給もみえきこえすのミなり
  まさり侍めるにありかたき御心さしのほとハ
  かすにも侍らぬ心にもあさましきまて
  もひたまへ侍をわかき御心ちにもおほし
  しりなからきこえさせたまひにくきにや
  侍らむといとつゝミなくものなれたるも
0127【いとつゝミなく】-かほる心中詞
  なまにくきものからけハひいたう人めきて
  よしあるこゑなれハいとたつきもしらぬ心ち
0128【たつきもしらぬ】-<朱合点>
  しつるにうれしき御けハひにこそなに
  こともけにおもひしり給けるたのミこよ」(26ウ・1526⑪)

  なかりけりとてよりゐ給へるをき丁のそ
0129【き丁のそはよりみれハ】-うちより見るなり
  はよりみれハあけほのゝ(ゝ
<朱>)やう/\ものゝ色わ
  かるゝにけにやつしたまへると見ゆる
  かりきぬすかたのいとぬれしめりたるほと
  うたてこの世のほかのにほひにやとあや
  しきまてかほりみちたりこのおい人は
  うちなきぬさしすきたるつミもやと
  もふたまへしのふれとあハれなるむかしの
  御物かたりのいかならむついてにうちいて
  きこえさせかたハしをもほのめかししろ」(27オ・1527③)

  しめさせむととしころねんすのついてにも
  うちませおもふ給へわたるしるしにやうれ
  しきおりに侍をまたきにおほゝれ侍
  にくれてえこそきこえさせす侍けれと
  ちわなゝくけしきまことにいミしくもの
0130【けしきまことに】-かほる心中詞
  かなしと思へりおほかたさたすきたる人ハ
0131【さたすきたる人】-年たけたるをいふ
  涙もろなる物とは見きゝ給へといとかう
  しもおもへるもあやしうなり給てこゝに
  かくまいることハたひかさなりぬるをかくあハ
  れしりたまへる人もなくてこそ露けき」(27ウ・1527⑧)

  みちのほとにひとりのミそほちつれうれ
  しきつゐてなめるをことなのこひたまひ
  そかしとのたまへハかゝるつゐてしも侍ら
0132【かゝるつゐてしも】-老人詞
  しかし又侍りとも夜のまのほとしらぬ命
  のたのむへきにも侍らぬをさらハたゝかゝる
  ふるもの世に侍けりとはかりしろしめされ
  侍らなむ三条の宮に侍しこしゝうはか
0133【三条の宮に】-女三
0134【こしゝう】-弁尼小侍ー一腹也
  なくなり侍にけるとほのきゝ侍しその
  かみむつましうおもふ給へしおなし程の
  人おほくうせ侍にける世のすゑにはる」(28オ・1527⑬)

  かなるせかいよりつたハりまうてきてこの
0135【せかい】-世界
  いつとせむとせのほとなむこれにかくさ
  ふらひ侍しろしめさしかしこのころとう
0136【とう大納言】-紅ー
  大納言と申なる御このかミの右衛門のかみ
0137【右衛門のかみ】-柏
  にてかくれ給にしハものゝつゐてなとにや
0138【ものゝつゐてなとにや】-弁語出権大納言問事
  かの御うへとてきこしめしつたふる事も
0139【かの御うへ】-柏
  侍らむすき給ていくはくもへたゝらぬ
0140【すき給て】-過
  心ちのミし侍そのおりのかなしさもまた
  袖のかハくおり侍らすおもふたまへらるゝ
  をかくおとなしくならせ給にける御よ」(28ウ・1528④)

  はひのほとも夢のやうになんかの権大納言
  の御めのとに侍しハ弁かハゝになむ侍し
0141【弁かはゝ】-母
  さ夕につかうまつりなれ侍しに人かすにも
  侍らぬ身なれと人にしらせす御心よりハた
  あまりけること越おり/\うちかすめのたま
  いしをいまハかきりになり給にし御やまひ
  のすゑつかたにめしよせていさゝかの給を
  くことなむ侍しをきこしめすへきゆへ
  なんひとこと侍れとかハかりきこえいて侍
  にのこりをとおほしめす御心侍らハのとか」(29オ・1528⑩)
0142【のこりをと】-尼物語の

  になんきこしめしはて侍へきわかき人/\
  もかたハらいたくさしすきたりとつき
  しろひ侍もことハりになむとてさすかに
  うちいてすなりぬあやしく夢かたりかむ
0143【あやしく夢かたり】-かほる心中
0144【かむなきやう】-巫<カン>覡 文選 男<カンナ>女<カンナ>
  なきやうのものゝとハすかたりすらむやう
  にめつらかにおほさるれとあハれにおほつ
  かなくおほしわたることのすちをきこゆ
  れハいとおくゆかしけれとけに人めもし
  けしさしくみにふる物かたりにかゝつら
  ひて夜をあかしはてむもちこ/\しかる」(29ウ・1529①)

  へけれハそこハかとおもひわくことハなきもの
  からいにしへの事ときゝ侍も物あハれになん
  さらハかならすこののこりきかせ給へ霧は
0145【さらハかならす】-薫詞
  れゆかはハしたなかるへきやつれをおもな
  く御らんしとかめられぬへきさまなれハおも
  ふたまふる心のほとよりハくちおしうなむ
  とてたちたまふにかのおハしますてら
0146【かのおハしますてら】-宮ー念仏ニ
  のかねのこゑかすかにきこえてきりいと
  ふかくたちわたれりみねのやへ雲おもひ
0147【みねのやへ雲おもひやる】-後 白雲の八重ニかさなるをちにても思ハん人ニ心へたつな おもひやる心斗ハさわらしをなにへたつらん嶺の八重雲 直幹<タヽモト>
  やるへたておほくあはれなるにな越この」(30オ・1529⑥)

  ひめ君たちの御心のうちとも心くるしう
  なにこと越おほしのこすらむかくいとおく
  まりたまへるもことハりそかしなとおほゆ
    あさほらけ家路もみえすたつね
0148【あさほらけ】-かほる
  こしまきのを山ハ霧こめてけり心ほそく
  も侍かなとたちかへりやすらひ給へるさま
0149【たちかへりやすらひ】-薫ノ
  を宮この人のめなれたるたに猶いとこと
  におもひきこえたるをまいていかゝハめつら
  しうみきこえさらん御返きこえつたへ
0150【御返】-弁尼
  にくけにおもひたれハれいのいとつゝまし」(30ウ・1529⑫)

  けにて
    雲のゐる嶺のかけちを秋きりのいとゝ
0151【雲のゐる】-姉君
  へたつるころにもあるかなすこしうちなけ
  ひたまへるけしきあさからすあハれなり
  なにハかりおかしきふしハみえぬあたり
  なれとけにこゝろくるしきことおほかる
  にもあかうなりゆけハさすかにひたおもて
  なる心ちして中/\なるほとにうけたま
  ハりさしつることおほかるのこりはいます
  こしおもなれてこそハうらみきこえさす」(31オ・1530③)

  へかめれさるハかく世の人めひてもてなし
  給へくハ思ハすに物おほしわかさりけりと
  うらめしうなんとてとのゐ人かしつらひ
  たるにしおもてにおハしてなかめ給ふあし
0152【あしろハ】-内膳司式云山城国近江国氷魚網代各処一△(△$
)其氷魚始九月迄十二月卅日供之
  ろハ人さハかしけなりされとひをもよらぬ
  にやあらむすさましけなるけしき
  なりと御ともの人/\みしりていふあやし
  き舟ともにしはかりつミをの/\なにと
  なき世のいとなミともにゆきかふさまとも
  のはかなき水のうへにうかひたるたれもお」(31ウ・1530⑧)

  もへハおなしことなるよのつねなさなり
  われハうかはすたまのうてなにしつけ
0153【たまのうてな】-<朱合点> 今日ミれハ玉のウてなもなかりけりあやめの草ノいほりのミして
  き身とおもふへき世かはとおもひつゝけ
0154【おもひつゝけらる】-遣状於姫君事
  らるすゝりめしてあなたにきこえ給ふ
0155【あなたに】-姫
    橋ひめの心をくみてたかせさすさほ
0156【橋ひめの】-かほる 離宮神此橋姫明神へ通給云也 さ筵ニ衣かたしきハ住吉の御哥也
  のしつくに袖そぬれぬるなかめ給ふらむ
  かしとてとのひ人にもたせたまへりいと
  さむけにいらゝきたるかほしてもてま
0157【いらゝきたる】-鳥はた立也
  いる御かへりかミのかなとおほろけならむハ
0158【かなと】-香
  はつかしけなるをときをこそかゝるお」(32オ・1530⑭)
0159【ときをこそ】-早

  りにハとて
    さしかへるうちの河おさあさ夕のし
0160【さしかへる】-姉君
  つくや袖をくたしはつらむ身さへうき
0161【身さへうきて】-<朱合点> さす棹(△&
棹)のしつくにぬるゝ袖ゆへニ身さへうきてもおもほゆるかな
  てといとおかしけにかき給へりまおにめ
0162【まおにめやすくも】-かほる心中
  やすくもものし給けりと心とまりぬれ
  と御車ゐてまいりぬと人/\さハかしきこ
  ゆれハとのゐ人ハかりをめしよせてかへり
0163【かへりわたらせたまハむほとに】-かほる詞 宮ー
  わたらせたまハむほとにかならすまいるへ
  しなとのたまふぬれたる御そともは
  みなこの人にぬきかけ給ひてとりにつ」(32ウ・1531⑤)
0164【この人に】-宿直人たふ

  かハしつる御なをしにたてまつりかへつ
  い人の物かたり心にかゝりておほしいてらる
  おもひしよりハこよなくまさりておかしかり
0165【おかしかりつる】-姫ー
  つる御けハひともおも影にそひて猶おも
  ひはなれかたき世なりけりと心よハく思し
  らる御ふミたてまつり給ふけさうたちて
  もあらすしろきしきしのあつこえたる
  にふてひきつくろひえりてすみつ
  きみところありてかき給ふうちつけなる
0166【うちつけなるさまにや】-かほる文のこと葉
  さまにやとあひなくとゝめ侍てのこりお」(33オ・1531⑩)

  ほかるも(も<朱>)くるしきわさになむかたハし
  きこえをきつるやうにいまよりハみすの
  まへも心やすくおほしゆるすへくなむ
  山こもりはて侍らむ日かすもうけたまハり
  をきていふせかりしきりのまよひもはる
  け侍らむなとそいとすくよかにかき給へる
  さこんのそうなる人御つかひにてかのおい
  人たつねてふミもとらせよとのたまふ
  とのひ人かさむけにてさまよひしなとあ
  ハれにおほしやりておほきなるひはりこ」(33ウ・1532①)

  やうのものあまたせさせ給ふまたの日かの御
  てらにもたてまつり給ふ山こもりのそうとも
0167【たてまつり給ふ】-送物事
  この比のあらしにハいと心ほそくくるしか
  らむをさておハしますほとのふせ給ふ
0168【ふせ給ふ】-かほる方より
  へからんとおほしやりてきぬわたなとおほ
  かりけり御おこなひはてゝいてたまふあし
  たなりけれハをこなひ人ともにわたきぬ
  けさ衣なとすへてひとくたりのほとつ
  つあるかきりの大とこたちに給ふとのゐ
  人か御ぬきすてのえむにいみしきかり」(34オ・1532⑦)

  の御そともえならぬしろきあやの御そ
  のなよ/\といひしらすにほへるをうつし
  きて身をハたえかへぬもなれハにつかは
  しからぬ袖のかを人ことにとかめられ
  てらるゝなむ中/\所せかりける心に
  まかせて身をやすくもふるまハれす
  とむくつけきまて人のおとろくにほひ
  をうしなひてはやとおもへと所せき人の
  御うつりかにてえもすゝきすてぬそあま
  りなるや君ハひめ君の御返こといとめや」(34ウ・1532⑫)
0169【君は】-かほる

  すくこめかしき越おかしく見給ふ宮にも
  かく御せうそこありきなと人/\きこえ
  させ御らむせさすれハなにかハけさうたち
  てもてなひ給ハむも中/\うたてあら
  むれいのわか人にゝぬみ心ハえなめるを
  からむ後もなとひとことうちほのめかし
  てしかハさやうにて心そとめたらむなと
  の給けり御みつからもさま/\の御とふらひ
0170【御みつからも】-宮ー
  の山のいはやにあまりしことなとのたま
0171【のたまへるにまうてんと】-語宇治宮事於三宮事
  へるにまうてんとおほして三の宮のかやう」(35オ・1533③)
0172【まうてんと】-薫ー
0173【三の宮】-匂兵部卿

  におくまりたらむあたりの見まさりせむ
0174【おくまりたらむ】-奥フカキ
  こそおかしかるへけれとあらましことにたに
  のたまふ物をきこえはけまして御心さハ
  かしたてまつらむとおほしてのとやかなる
  夕くれにまいり給へりれいのさま/\なる
0175【まいり給へり】-匂へ
  御物かたりきこえかハし給ふついてにうち
  の宮の御事かたりいてゝみしあか月のあり
  さまなとくハしくきこえ給ふに宮いと
  せちにおかしとおほひたりされハよと御け
0176【されハよと】-かほる心中
  しきをみていとゝ御心うこきぬへくいひ」(35ウ・1533⑧)

  つゝけたまふさてそのありけんかへりことハ
0177【さてそのありけん】-匂宮の御詞
  なとかみせ給ハさりしまろならましかハ
  とうらみ給ふさかしいとさま/\御らむす
  へかめるハしをたにみせさせたまハぬかのわ
0178【かのわたり】-かほる
  たりハかくいともむもれたる身にひき
  こめてやむへきけハひにも侍らねハかなら
  す御らむせさせはやとおもひ給れといか
  てかたつねよらせ給へきかやすきほと
  こそすかまほしくハいとよくすきぬへ
  きよに侍りけれうちかくろへつゝおほか」(36オ・1533⑭

  めるかなさるかたにみところありぬへき女
0179【さるかたに】-匂宮
  のもの思ハしきうちしのひたるすみか
  とも山里めひたるくまなとにをのつから
  侍へかめりこのきこえさするわたりハいとよ
  つかぬひしりさまにてこち/\しうそあら
  むととしころ思あなつり侍てみゝをたに
  こそとゝめ侍らさりけれほのかなりし月影
  の見をとりせすハま越ならんはやけハひ
  ありさまはたさハかりならむをそあらまほ
  しきほとゝハおほえ侍へきなときこえ」(36ウ・1534⑤)

  たまふはて/\ハまめたちていとねたく
0180【はて/\ハ】-匂宮
  おほろけの人に心うつるましき人のかく
  ふかくおもへるをおろかならしとゆかし
  うおほすことかきりなくなり給ひぬなを
  また/\よくけしき見たまへと人をす
  すめ給てかきりある御身のほとのよたけ
  さ越いとはしきまて心もとなしとおほし
  たれハおかしくていてやよしなくそ侍
0181【おかしくて】-かほる心中
  ハし世中に心とゝめしと思ふ給るやうある
  身にてな越さりことも(△&
も)つゝましう侍を」(37オ・1534⑩)

  心なからかなハぬ心つきそめなハおほきに
  おもひにたかふへきことなむ侍へきと
  こえ給へハいてあなこと/\しれひのおとろ
0182【いてあなこと/\し】-匂宮
  おとろしきひしりことは見はてゝし
0183【ひしりことは】-聖人詞也
  かなとてわらひ給ふ心のうちにハかのふる
0184【心のうちにハ】-かほる心中
  人のほのめかししすちなとのいとゝうち
  おとろかれて物あハれなるにおかしとみる
  こともめやすしときくあたりもなには
  かり心にもとまらさりけり十月になりて
  五六日のほとにうちへまうてたまふあ」(37ウ・1535①)

  しろをこそこの比ハ御らむせめときこゆる
  人/\あれとなにかそのひをむしにあらそ
0185【ひをむし】-△(△$
郭)撲詩借問蜉蝣輩寧知亀鶴年 蜏ヒヲムシ 蜉蝣イ 白小虫如蜻朝ニ生夕死
  ふ心にてあしろにもよらむとそきすて
  給てれいのいとしのひやかにていてたち
  給かろらかにあしろくる(△&
る)まにてかとりの
0186【かとりのなをし】-昔ハ公卿も直衣に平絹を用たるへし
  なをしさしぬきぬはせてことさらひき
0187【ことさらひき給へり】-詞字 着
  給へり宮まちよろこひ給て所につけたる
0188【宮】-八
  御あるしなとおかしうしなしたまふくれ
0189【御あるし】-饗
  ぬれハおほとなふらちかくてさき/\見
  さしたまへるふミとものふかきなとあさり」(38オ・1535⑥)

  もさうしおろしてきなといハせ給ふ
0190【きなといはせ給ふ】-義 議論心なり
  ちもまとろます河かせのいとあらまし
  きに木葉のちりかふをと水のひゝき
  なとあハれもすきて物おそろしく心ほ
  そき所のさまなりあけかたちかくなり
  ぬらんと思ふほとにありししのゝめおも
  ひいてられて琴のねのあハれなること
  のついてつくりいてゝさきのたひの霧に
  まとハされ侍し明ほのにいとめつらしき
  ものゝねひとこゑうけたまはりしのこり」(38ウ・1535⑪)

  なむ中/\にいといふかしうあかすおもふ
  たまへらるゝなときこえたまふ色をも
0191【色をもかをも】-宇治宮御返答
  かをもおもひすてゝし後むかしきゝし
  こともみなわすれてなむとのたまへと
  めして琴とりよせていと月なくなり
0192【いと月なく】-宮法談之比召楽器事
  にたりやしるへするものゝねにつけて
  なんおもひいてらるへかりけるとてひわ
  めしてまらうとにそゝのかし給ふとり
0193【まらうとに】-かほる也
  てしらへたまふさらにほのかにきゝ侍
  しおなしものとも思ふたまへられ」(39オ・1536②)

  さりけり御ことのひゝきからにやとこそ
0194【御ことのひゝきからにや】-かほる詞
  おもふたまへしかとて心とけてもかき
  たてたまハすいてあなさかなやしか御み
0195【あなさかなや】-宮の御詞
  みとまるハかりのてなとハいつくよりか
  こゝまてハつたハりこむあるましき
  ことなりとてきむかきならしたまへる
  いとあハれに心すこしかたへはみねのまつ
0196【かたへはみねのまつ風】-<朱合点> 後撰 夏夜ふかやふか琴引をきゝて 短夜のふけ行まゝニ高砂のミねの松かせふくかとそ(△&
そ)きく 兼輔 拾ー 琴のねに嶺の松風かよふらしいつれのをこそしらめそむらん 斎宮女ー
  風のもてはやすなるへしいとたと/\
  しけにおほめき給て心はえありてひと
  つはかりにてやめたまひつこのわたりに」(39ウ・1536⑦)

  おほえなくており/\ほのめくさうのこと
0197【さうのこと】-姫ー
  のねこそ心えたるにやときくおり侍れ
  と心とゝめてなともあらてひさしうなり
  にけりや心にまかせてをの/\かきなら
  すへかめるハ川なミハかりやうちあハすら
  むろなうものゝようにすハかりのはう
0198【ろなう】-無論
0199【ように】-用ニスル
  しなともとまらしとなむおほえ侍と
  てかきならし給へとあなたにきこえ
  たまへとおもひよらさりしひとりこと
0200【おもひよらさりし】-姫ー達
  をきゝ給ひけんたにある物をいとかた」(40オ・1536⑫)

  ハならむとひきいりつゝみなきゝ給は
  すたひ/\そゝのかしたまへととかく
  きこえすさひてやミ給ひぬめれハいと
0201【いとくちおしう】-かほる心
  くちおしうおほゆそのついてにもかく
0202【そのついてにも】-宮の御詞
  あやしうよつかぬおもひやりにてすく
  すありさまとものおもひのほかなる事
  なとはつかしうおほひたり人にたにいか
  てしらせしとはくゝみすくせとけふ
  あすともしらぬ身ののこりすくなさに
  さすかにゆくすゑと越き人ハおちあふ」(40ウ・1537③)

  れてさすらへん事これのミこそけに
  よ越はなれんきハのほたしなりけれと
  うちかたらひ給へハ心くるしうみたてま
0203【心くるしう】-かほる心中詞
  つりたまふわさとの御うしろミたち
  かはかしきすちにハ侍すともうと/\
  しからすおほしめされんとなむおもふた
  まふるしハしもなからへ侍らむいのちの程
  はひとこともかくうちいてきこえさせ
  てむさまをたかへ侍ましくなむなと
  申給へハいとうれしきことゝおほしの」(41オ・1537⑧)
0204【いとうれしきことゝ】-宮の御詞

  の給さてあか月かたの宮の御おこなひ
  したまふほとにかのおい人めしいてゝあひた
0205【おい人】-弁尼
  まへりひめ君の御うしろミにてさふらはせ
  給ふ弁の君とそいひける年も六十に
  すこしたらぬほとなれとみやひかにゆへ
  あるけハひして物なときこゆ古権大納言
0206【古権大納言の君の】-柏 弁達故大納言遺言事
  の君のよとともにものをおもひつゝ
  まひつきはかなくなりたまひにしあり
  さまをきこえいてゝなくことかきりなし
0207【けによその人の】-かほる心中詞
  によその人のうへときかむたにあハれ」(41ウ・1537⑬)

  なるへきふることゝも越ましてとしこ
  ろおほつかなくゆかしういかなりけんこと
  のハしめにかと仏にもこの事をさたかに
  しらせ給へとねんしつるしるしにやかく
  夢のやうにあハれなるむかしかたりをおほ
  えぬついてにきゝつけつらむとおほすに
  涙とゝめかたかりけりさてもかくそのよの
  心しりたる人ものこりたまへりけるをめつ
  らかにもはつかしうもおほゆることの
  すちに猶かくいひつたふるたくひや又も」(42オ・1538④)

  あらむとしころかけてもきゝをよはさり
  けるとのたまへハこしゝうと弁とはなち
0208【こしゝうと弁とはなちて】-老人ノ詞
  てまたしる人侍らしひとことにてもまた
  ことひとにうちまねひ侍らすかくものは
  かなくかすならぬ身のほとに侍れとよる
  ひるかの御かけにつきたてまつりて侍し
  かハをのつからものゝけしきをもみたて
  まつりそめしに御心よりあまりておほし
  ける時々たゝふたりのなかになんたまさかの
  御せうそこのかよひも侍しかたハらいたけ」(42ウ・1538⑨)

  れはくハしくきこえさせすいまはの
  とちめになり給ていさゝかのたまいをく
  ことの侍しをかゝる身にハをき所なく
  ふせくおもふ給へわたりつゝいかにしてかハ
  こしめしつたふへきとはか/\しからぬ
  念すのついてにも思ふたまへつるを仏ハ
  世におはしましけりとなんおもふたまへ
  しりぬる御らむせさすへきものも侍りいま
  ハなにかハやきもすて侍なむかくあさ
  夕のきえをしらぬ身のうちすて侍なハ」(43オ・1539①)

  うちゝるやうもこそといとうしろめたく
  おもふたまふれとこの宮わたりにもとき
0209【この宮わたり】-八宮
  ときほのめかせたまふ越まちいてたて
  まつりてしはすこしたのもしくかゝるお
  りもやとねんし侍へるちかく(く$
ら)いて(いて=△△、△△#)まうて
  きてなむさらにこれハこの世のことにも
  侍らしとなく/\こまかにむまれたまひ
  けるほとのこともよくおほえつゝきこゆ
  むなしうなり給しさハきにはゝに侍し
0210【はゝに侍し人】-弁の君か母をいふ
  人ハやかてやまひつきてほともへすかく」(43ウ・1539⑥)

  れ侍にしかハいとゝおもふたまへしつミふち
0211【ふち衣たちかさね】-<朱合点> [糸+衰]<フチ>衣 喪<フチ>衣 かしは木の服と母の服とを着したるをいふ 六 一重たにきるハわひしき藤衣かさなる秋を思ひやらなん貫之
  衣たちかさねかなしきことをおもひたま
  へし程にとしころよからぬ人の心をつけ
  たりけるか人をハかりこちてにしのうミ
0212【人をハかりこちて】-弁ノ君か人ニたはかられてつくしの方へ人(人$
く)たりたるをいふ
  のはてまてとりもてまかりにしかハ
  のことさへあとたえてその人もかしこに
  てうせ侍にし後とゝせあまりにてなん
  あらぬよの心ちしてまかりのほりたりし
  をこの宮はちゝかたにつけてわらハよ
0213【この宮】-八ー
0214【ちゝかたにつけて】-弁△(△&
遠)類也 ハヽ北方
  りまいりかよふゆへ侍しかハいまハかう世に」(44オ・1539⑪)

  ましらふへきさまにも侍らぬをれせい院
  の女御殿の御かたなとこそハむかしきゝな
0215【女御殿】-柏妹弘ー
  れたてまつりしわたりにてまいりよるへく
  侍しかとハしたなくおほえ侍てえさし
  いて侍らてみ山かくれのくち木になりに
0216【み山かくれのくち木】-<朱合点> 古今 かたちこそ深山かくれの朽木なれ
  て侍なりこしゝうハいつかうせ侍にけん
  のかミのわかさかりと見侍し人ハかすゝく
  なくなり侍にけるすゑのよにおほくの
  人にをくるゝいのちをかなしくおもひ給
  へてこそさすかにめくらひ侍れなとき」(44ウ・1540②)

  こゆるほとにれひのあけはてぬよしさ
0217【よしさらは】-かほる詞
  らはこのむかし物かたりハつきすへく
  なんあらぬまた人きかぬ心やすき所にて
  きこえんしゝうといひし人ハほのかに
0218【しゝう】-小ー
  おほゆるはいつゝむつはかりなりし程に
0219【いつゝむつはかりなりし程に】-かほるの
  やにはかにむねをやミてうせにきとなむ
  きくかゝるたひめむなくハつミおもき
  身にてすきぬへかりける事なとのた
  まふさゝやかにおしまきあわせたるほく
0220【さゝやかに】-老人
0221【ほくとも】-反古
  とものかひ(△&
ひ)くさきをふくろにぬひいれ」(45オ・1540⑦)
0222【かひくさき】-ふるくさ(さ
<朱>)越いふ

  たるとりいててたてまつるおまへにて
  うしなハせ給へわれな越いくへくもあらす
  なりにたりとのたまはせてこの御ふミ
  をとりあつめてたまハせたりしかハ
  しゝうにまたあひ見侍らむついてに
  さたかにつたへまいらせむとおもひた
  まへしをやかてわかれ侍にしもわたくし
  ことにハあかすかなしうなんおもふ給ふると
  きこゆつれなくてこれハかくいたまいつ
0223【かやうのふる人ハ】-かほる心中
  やうのふる人ハとはすかたりにやあやしき」(45ウ・1540⑫)

  ことのためしにいひいつらむとくるしく
  おほせとかへす/\もちらさぬよしをち
  かひつるさもやとまたおもひみたれたまふ
  御かゆこはいひなとまいりたまふ昨日ハ
0224【こはいひ】-強飯
  いとまひなりしをけふハうちの御物いミも
0225【いとま】-暇
  あきぬらん院の女一の宮なやミ給ふ
0226【院】-冷
  とふらひにかならすまいるへけれハかた/\
  いとまなく侍をまたこのころすくして
  山のもみち散らぬさきにまいるへきよしき
  こえたまふかくしハしハたちよらせたま」(46オ・1541③)
0227【かくしはしはたちよらせたまふ】-宇治宮

  ふひかりに山のかけもすこしものあきら
  むる心ちしてなんなとよろ(△&
ろ)こひきこえ
  たまふかへり給ひてまつこのふくろをみ
0228【かへり給ひて】-薫
  給へハからのふせむれうをぬひて上と
  いふもしをうへにかきたりほそきくミして
0229【くミして】-組
  くちのかた越ゆひたるにかの御名のふう
  つきたりあくるもおそろしうおほえたま
  ふ色/\のかみにてたまさかにかよひける
  御ふミの返こといつゝむつそあるさてハかの
  御てにてやまひハおもくかきりになり」(46ウ・1541⑧)
0230【やまひハおもく】-柏木文のこと葉

  にたるにまたほのかにもきこえむことかたく
  なりぬるをゆかしうおもふことハそひに
  たり御かたちもかハりておハしますらむか
  さま/\かなしきことをみちのくにかみ
  五六枚につふ/\とあやしきとりのあ
0231【とりのあと】-蒼頡<ケツ>作文字
  とのやうにかきて
    めのまへにこの世をそむく君よりも
0232【めのまへに】-衛門督
  よそにわかるゝ玉そかなしき又ハしに
0233【よそにわかるゝ玉そかなしき】-古今 声をたにきかてわかるゝ玉よりもなき床にねん君そかなしき
  めつらしくきゝ侍るふた葉のほとも
0234【ふた葉のほと】-かほるの事
  しろめたうおもふたまふるかたハなけれと」(47オ・1541⑭)

    命あらハそれともみまし人しれぬ
0235【命あらハ】-衛門のかみ
  岩ねにとめし松のおいすゑかきさし
  たるやうにいとみたりかハしうてこしゝう
  の君にとうへにハかきつけたりしミといふ
0236【しミといふむし】-紙魚
  むしのすみかになりてふるめきたるかひ
  くさゝなからあとハきえすたゝいまかき
0237【あとはきえす】-<朱合点> 書つくる跡ハ千とせもありぬへしわすれすしのふ人やなからん
  たらんにもたかハぬことの葉とものこま/\
  とさたかなるを見給ふにけにう(う
<朱>)ちゝり
  たゝ(ゝ
<朱>)ましよとうしろめたういとおしき
  事ともなりかゝること世にまたあらむ」(47ウ・1542⑥)

  やと心ひとつにいとゝ物思ハしさそひて
  うちへまいらむとおほしつるもいてたゝ
  れす宮のおまへにまいり給へれハいとなに
0238【宮のおまへ】-女三
  心もなくわかやかなるさまし給ひて
  よみたまふをはちらひてもてかへ(へ
<朱>)し給
  へりなにかハしりにけりともしられたて
  まつらむなとこゝろにこめてよろつに
  おもひゐたまへり」(48オ・1542⑨)

(白紙)」(48ウ)

【奥入01】一還城楽陵王をあやふめむとす日の
    くるゝにはちして日をむまにかきかへす
    といふ事也くハしくしらす
    此等事可否難弁
    史記
    魯陽以戈廻落日事歟
    同時哥歟不可為証哥歟
【奥入02】宇治河の浪の枕に夢さめてよるハはし
      ひめいやねさるらん」(49オ)

イ本
以哥詞為巻名一の名ハ優婆そくの宮薫中将十六歳の事有此巻
匂兵部卿紅梅竹河同時の事と見えたり
  号莵道巻事
宇治十帖ハ式部娘大弐三位書たる也云々然は斑彪<ハンヒウ>か史記を書さし
たるを其子斑固<コ>書続たるに似たるへし大弐三位は右衛門佐藤宣
孝か女賢子後一条院御乳叙三位也
応神天皇ト申ハ宇佐宮の八幡大菩薩の御事也御子に大鷦鷯御子其
御弟莵道稚子と東宮をたかひに論給へるにたとへて桐壺御門
の御子第十御子冷泉第八宮宇治東宮の事ニより第十宮東宮ニ
立給へハ八宮莵道へ隠居シ給ヘル事ヲ模彼書之也云々
  以師説書付之 良鎮」(49ウ)

二校了<朱>」(前遊紙1オ)