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「かしは木」(題箋)

  衛門のかむのきみかくのミなやミわたり給
  こと猶をこたらてとしもかへりぬおとゝきたの
  かたおほしなけくさま越みたてまつるに
  しゐてかけはなれなんいのちかひなくつみ
  をもかるへきこと越思心は心としてまた
  あなかちにこの世にはなれかたくおしみとゝ
  めまほしき身かハいはけなかりしほとより
  もふ心ことにてなに事越も人にいまひと
  きハまさらむとおほやけわたくしのことに
  ふれてなのめならすおもひのほりしかと」(1オ・1227E)

  そのこゝろかなひかたかりけりとひとつふたつの
0001【ひとつふたつのふし】−まつ一ハ位なとあさくて女三宮の御うしろミにせられぬ事
  ふしことにみを思をとしてしこなたなへて
0002【なへての世中】−<朱合点> 大方ハ我身一ノうきからニなへての世をもうらみつるかな
  の世中すさましうおもひなりてのちの
  世のをこなひにほひふかくすゝみにしを
  おやたちの御うらみ越思ひて野山にも
0003【野山にも】−<朱合点> 古今 いつくニか世をハいとハん心こそ野にも山にもまとふへらなれ
  あくかれむみちのをもきほたしなるへく
0004【ほたしなるへく】−<朱合点>
  おほえしかハとさまかうさまにまきらハし
  つゝすくしつる越つゐにな越世にたち
  まふへくもおほえぬものおもひのひとかた
  ならすみにそひにたるハわれよりほかに」(1ウ・1227K)

  たれかはつらき心つからもてそこなひつるに
  こそあめれとおもふにうらむへき人もなし
  仏神越もかこたんかたなきはこれみな
  さるへきにこそあらめたれもちとせの
0005【たれもちとせの】−<朱合点> 六 うくも世ニ心ニ物ノかなわぬはたれも 小野
  まつならぬ世ハつゐにとまるへきにもあ
  らぬをかく人にもすこしうちしのはれぬ
  へきほとにてなけのあはれ越もかけ給
0006【なけのあはれ】−女三宮ノ事也
  人のあらむをこそハひとつおもひにもえ(ひえ&
もえ)ぬ
0007【ひとつおもひに】−<朱合点> 古今 なつむしの身をいタツラニナス事もヒトツ
  るしるしにハせめ/\てなからへはをのつから
  あるましき名越もたちわれも人も」(2オ・1228A)

  やすからぬミたれいてくるやうもあらむよりハ
  なめしと心をい給らんあたりにもさりとも
0008【なめしと】−源氏ノ無礼也と思給わん事也
  おほしゆるいてんかしよろつのこといまハの
  とちめにハみなきえぬへきわさなりまたこと
  さまのあやまちしなけれはとしころも
  のゝおりふしことにはまつハしならひ給
  にしかたのあはれもいてきなんなとつれ/\に
  おもひつゝくるもうちかへしいとあちきなし
  なとかくほともなくしなしつるみならむと
  かきくらしおもひみたれてまくらもうきぬ」(2ウ・1228F)
0009【まくらもうきぬはかり】−古今 涙川枕なかるゝうきねニハ

  はかり人やりならすなかしそへつゝいさゝか
  ひまありとて人/\たちさり給へるほとに
  かしこに御ふミ奉れ給いまはかきりになり
0010【かしこに】−女三宮
  にて侍るありさまはをのつからきこし
  めすやうもはへらん越いかゝなりぬるとたに
  御みゝとゝめさせ給ハぬもことハりなれと
  いとうくも侍るかななときこゆるにいみしう
  わなゝけはおもふこともみなかきさして
    いまはとてもえむけふりもむすほゝれ
0011【いまはとて】−衛門督
  たえぬおもひのな越やのこらむあハれと」(3オ・1228M)

  たにのたまハせよ心のとめて人やりならぬ
0012【人やりならぬ】−<朱合点> 古今 人やりの道ならなくニ
  やミにまよハむみちのひかりにもし侍らんと
  きこえ給侍従にもこりすまにあハれなる
0013【こりすまに】−<朱合点> こりすまに又も
  ことゝもいひおこせ給へりみつからもいま
  ひとたひいふへきことなんとの給へれは
  この人もわらハよりさるたよりにまいり
  かよひつゝ見奉りなれたる人なれはおほ
  けなき心こそうたておほえ給つれいまハ
  ときくはいとかなしうてなく/\猶この
  御返まことにこれ越とちめにもこそ侍」(3ウ・1229D)

  れときこゆれは我もけふかあすかの
0014【我もけふかあすかの】−女三宮ノ御詞
  心地してものこゝろほそけれはおほかた
  のあはれはかりはおもひしらるれといと心
  うきことゝおもひこりにしかはいみしうなん
  つゝましきとてさらにかい給ハす御心本
  上のつよくつしやかなるにハあらねとはつ
  かしけなる人の御けしきのおり/\に
  まほならぬかいとおそろしうわひしきなるへし
  されと御すゝりなとまかなひてせめき
  こゆれはしふ/\にかい給をとりてしの」(4オ・1229I)

  ひてよひのまきれにかしこにまいりぬ
  おとゝかしこきをこなひ人か(△&
か)つらき山
0015【かつらき山】−文武御宇役行者事
  よりさうしいてたるまちうけたまひて
  か地まいらせんとしたまふ御すほうときやう
  なともいとおとろ/\しうさハきたり
  人の申まゝにさま/\ひしりたつけんさ
  なとの(の
<朱>)おさ/\世に(に<朱>)きこえすふかき山に
  こもりたるなと越もおとうとのきみたち
  をつかハしつゝたつねめすにけにくゝ
  つきなきやまふしともなともいとおほく」(4ウ・1230@)

  まいるわつらひ給さまのそこはかとなく
  もの越心ほそく思ひてね越のミ時/\
  なき給おんやうしなともおほくは女の
  りやうとのミうらなひ申け(△&
け)れ(れ<朱>)さる事も
  やとおほせとさらにものゝけのあらハれ
  いてくるもなきにおもほしわつらひて
  かゝるくま/\越もたつね給なりけり
  このひしりもたけたかやかにまふし
0016【まふし】−目也
  つへたましくてあららかにおとろ/\しく
0017【つへたましく】−つへ/\ しきなといふ心なり
  たらによむ越いてあなにくやつミの」(5オ・1230E)

  ふかきみにやあらむたらにのこゑたかき
  はいとけおそろしくていよ/\しぬへく
0018【いよ/\しぬへく】−時平公御子あつたゝの中納言事
  こそおほゆれとてやをらすへりいてゝ
  の侍従とかたらひ給おとゝハさもしり
  給ハすうちやすミたると人/\して申させ
  たまへハさおほしてしのひやかにこのひしり
  とものかたりし給(△&
給)をとなひ給へれとな越
  はなやきたるところつきてものわらひし
  給おとゝのかゝるものともとむかひゐて
  このわつらひそめ給しありさまなにとも」(5ウ・1230J)

  なくうちたゆミつゝおもりたまへること
  まことにこの物のけあらハるへうねんし
  たまへなとこまやかにかたらひ給もいと
  あはれなりあれきゝ給へなにのつミとも
  おほしよらぬにうらなひよりけん女のりやう
  こそまことにさる御しふのみにそひたる
  ならはいとハしきみもひきかへやむこと
  なくこそなりぬへけれさてもおほけな
  き心ありてさるましきあやまち越
  ひきいてゝ人の御名越もたてみ越も」(6オ・1231A)

  かへりみぬたくひむかしのよにもなくやハ
  ありけるとおもひな越すにな越けハひ
  わつらハしうかの御心にかゝるとか越しら
  れ奉てよになからへんこともいとまはゆく
  おほゆるハけにことなる御ひかりなるへし
  ふかきあやまちもなきに見あはせ
  奉りしゆふへのほとよりやかてかきみたり
  まとひそめにしたましゐのみにも
  かへらすなりにし越かの院のうちにあく
0019【かの院のうちに】−源
  かれありかはむすひとゝめ給へよなと」(6ウ・1231F)
0020【むすひとゝめ給へよ】−<朱合点> 伊ー 思あまりいてにし玉ノあるならん夜ふかく見へハ玉むすひせよ

  いとよハけにからのやうなるさましてなき
0021【からのやうなるさま】−<朱合点> うつせみハからを見つゝもなくさめつ
  みわらひミかたらひ給宮も物をのミはつ
  かしうつゝましとおほしたるさまを
  かたるさてうちしめりおもやせ給へらん御
  さまのおもかけにみたてまつる心地して
  おもひやられたまへはけにあくかるらむた
  まやゆきかよふらんなといとゝしき心地
  にもみたるれはいまさらにこの御ことよ
  かけてもきこえしこのよハかうはかな
  くてすきぬる越なかきよのほたしにも」(7オ・1231K)

  こそと思(思<朱>)なむいといとおしき心くるしき
  御こと越たいらかにとたにいかてきゝほい奉
  らむ見しゆめ越心ひとつにおもひあハ
  せて又かたる人もなきかいみしういふせ
  くもあるかななととりあつめおもひし見たま
  へるさまのふかきをかつハいとうたてお
  そろしう思へとあはれはたへしのはす
  この人もいみしうなくしそくめして
  御返み給へは御てもな越いとはかなけに
  おかしきほとにかい給て心くるしうきゝ」(7ウ・1232B)

  なからいかてかはたゝおしハかりのこらんと
  あるは
    たちそひてきえやしなましうきこと越
0022【たちそひて】−女三宮
  おもひみたるゝけふりくらへにをくるへう
  やハとはかりある越あはれにかたしけなしと
  おもふいてやこのけふりハかりこそハこの
  よのおもひてならめはかなくもありける
  かなといとゝなきまさり給て御返ふし
  なからうちやすミつゝかひ給ことのはのつゝき
  もなうあやしきとりのあとのやうにて」(8オ・1232H)

    ゆくゑなき空のけふりとなりぬとも
0023【ゆくゑなき】−衛門督
  おもふあたり越たちハはなれしゆふへハ
  わきてなかめさせ給へとかめきこえさせ
  給ハん人め越もいまは心やすくおほし
  なりてかひなきあはれ越たにもたえす
  かけさせ給へなとかきみたりて心ちのく
  るしさまさりけれはよしいたうふけぬ
  さきにかへりまいり給てかくかきりの
  さまになんともきこえ給へいまさらに
  人あやしとおもひあハせむをわかよのゝち」(8ウ・1233@)

  さへ思こそくちおしけれいかなるむかしの
  ちきりにていとかゝることしも心にしミ
  けむとなく/\ゐさりいり給ぬれはれい
  はむこにむかへすゑてすゝろこと越さへ
0024【むこに】−無期
0025【むかへすゑて】−侍従
  いハせまほしうし給をことすくなにてもと
  思かあハれなるにえもいてやらす御あり
  さま越めのともかたりていミしうなき
  まとふおとゝなとのおほしたるけしきそ
  いみしきやきのふけふすこしよろしかり
  つる越なとかいとよハけにハ見え給とさ」(9オ・1233E)

  ハき給なにかな越とまり侍ましき
  なめりときこえ給てみつからもない給
  ハこの暮つかたよりなやましうし給ける
  をその御けしきとみたてまつりしりたる
  人/\さはきみちておとゝにもきこえ
  たりけれはおとろきてわたり給へり御心
  のうちハあなくちおしや又おもひまする
  かたなくてみ奉らましかはめつらしく
  うれしからましとおほせと人にハけしき
  もらさしとおほせはけんさなとめしみす」(9ウ・1233J)

  法ハいつとなくふたんにせらるれハそう
  ともの中にけんあるかきりみなまいりて
  かちまいりさハくよ一夜なやミあかさせ給
  てひさしあかるほとにむまれ給ぬおとこ
  きみときゝ給にかくしのひたることのあや
  にくにいちしるきかほつきにてさしいて
  給へらんこそくるしかるへけれ女こそなにと
  なくまきれあまたの人のみるものなら
  ねはやすけれとおほすに又かく心くるし
  きうたかひましりたるにてハ心やすき」(10オ・1234A)

  かたにものし給もいとよしかしさても
  あやしやわかよとゝもにおそろしと思ひし
  ことのむくひなめりこのよにてかくおもひ
  かけぬことにむかハりぬれはのちのよの
0026【むかハり】−向
  つミもすこしかろミなんやとおほす
  ハたしらぬことなれハかく心ことなる御はら
  にてすゑにいておハしたる御おほえいみし
  かりなんとおもひいとなミつかうまつる
  うふやのきしきいかめしうおとろ/\し
  御かた/\さま/\にしいて給御うふやし」(10ウ・1234F)

  ないよのつねのおしきついかさねたかつき
  なとの心はへもことさらに心/\にいとまし
  さ見えつゝなむ五日の夜中宮の御かたより
  こもちの御前の物女房の中にもしな/\に
0027【こもちの御前】−女三
  思あてたるきは/\おほやけことにいかめしう
  せさせ給へり御かゆてとむしき五十具
  ころ/\のきやう院のしもへちやうのめし
0028【きやう】−饗
0029【しもへ】−召次
0030【めしつきところ】−召次所
  つきところなにかのくまゝていかめしくせ
  させ給へりみやつかさ大夫よりはしめて
0031【みやつかさ】−ー司
0032【大夫】−中宮職
  院殿上人みなまひれり七(七+
日)夜はうちより」(11オ・1234L)

  それもおほやけさまなりちしのおとゝなと
  心ことにつかうまつり給へきにこのころは
  なにこともおほされておほそうの御とふら
  ひのミそありけるみやたちかんたちめ
  なとあまたまいり給おほかたのけしきも
  よになきまてかしつききこえたまへと
  おとゝの御心のうちに心くるしとおほすこと
0033【おとゝ】−源
  ありていたうももてはやしきこえ
  給ハす御あそひなとハなかりけり宮ハさは
  かりひわつなる御さまにていとむくつけう」(11ウ・1235C)

  ならハぬことのおそろしうおほされけるに御ゆ
  なともきこしめさすみの心うきこと越
  かゝるにつけてもおほしいれハさハれこの
  ついてにもしなはやとおほすおとゝハいと
  よう人め越かさりおほせとまたむつかし
  けにおハするなとをとりわきてもみたて
  まつり給ハすなとあれハおいしらへる人
  なとハいてやをろそかにもおハしますかな
  めつらしうさしいて給へる御ありさまの
  かはかりゆゝしきまてにおハしますをと」(12オ・1235H)

  うつくしみきこゆれはかたみゝミにきゝ
  給てさのミこそハおほしへたつることも
  まさらめとうらめしうわかみつらくてあま
  にもなりなハやの御こゝろつきぬよるなとも
  こなたにハおほとのこもらすひるつかたなと
  そさしのそき給よのなかのはかなき越
  みるまゝにゆくすゑみしかうものこゝろ
  ほそくてをこなひかちになりにて侍れ
  はかゝるほとのらうかハしき心ちするに
  よりえまいりこぬをいかゝ御心ちハさはやか」(12ウ・1235M)

  におほしなりにたりや心くるしうこそとて
  御木丁のそはよりさしのそき給へり御くし
  もたけ給て猶えいきたるましき心ち
  なむし侍をかゝる人はつミもをもかなり
  あまになりてもしそれにやいきとまる
  と心み又な


くなるともつミ越うしなふ
  こともやとなんおもひ侍るとつねの御け
  ハひよりハいとをとなひてきこえ給をいと
0034【いとうたて】−源詞
  うたてゆゝしき御ことなりなとてかさまて
  ハおほすかゝることハさのミこそおそろし」(13オ・1236D)

  かむなれとさてなからへぬわさならは
  こそあらめときこえ給御心のうちにハ
  まことにさもおほしよりての給ハゝさやう
  にて見たてまつらむハあはれなりなん
  かしかつみつゝもことにふれて心をかれ
  給ハんか心くるしうわれなからもえおもひ
  な越すましううき(き
<朱>)のうちましりぬ
  へき越をのつからをろかに人のみとか
  むることもあらんかいと/\おしう院なとの
  きこしめさんこともわかをこたりにのミこそハ」(13ウ・1236I)

  ならめ御なやミにことつけてさもやなし
  たてまつりてましなとおほしよれと又いと
  あたらしうあはれにかハかりと越き御くし
  のおいさきをしかやつさんことも心くるし
  けれはな越つよくおほしなれけしうハ
  おハせしかきりとみゆる人もたいらかなる
  ためしちかけれはさすかにたのミあるよに
  なんなときこえ給て御ゆまいり給(給+
に)いと
  いたうあ越ミやせてあさましうはかな
  けにてうちふし給へる御さまのおほ」(14オ・1237@)

  ときうつくしけなれハいみしきあやまち
  ありとも心よハくゆるしつへき御ありさま
  かなとみたてまつり給山のみかとハめつら
  しき御ことたいらかなりときこしめして
  あはれにゆかしうおもほすにかくなやみ
  給よしのミあれはいかにものし給へきに
  かと御をこなひもみたれておほしけり
  さはかりよハり給へる人のものをきこし
  めさてひころへ給へはいとたのもしけ
  なくなり給てとしころ見奉らさりし」(14ウ・1237F)

  ほとよりも院のいとこひしくおほえ給を
  又も見奉らすなりぬるにやといたうな
  い給かくきこえ給さまさるへき人して
  つたへそうせさせ給けれはいとたへかたう
  なしとおほしてあるましきことゝハおほし
  なからよにかくれていてさせ給へりかねて
  さる御せうそこもなくてにハかにかくわたり
  おハしまいたれはあるしの院おとろき
  かしこまりきこえ給よの中越かへりみす
0035【よの中越】−朱ー詞
  ましう思ひ侍しかとな越まとひさめ」(15オ・1237K)

  かたきものハこのみちのやみになん侍け
0036【このみちのやみに】−<朱合点>
  れはをこなひもけたひしてもしをくれ
  さきたつみちのたうりのまゝならて
  わかれなはやかてこのうらみもやかたみに
  のこらむとあちきなさにこのよのそし
  りをはしらてかくものし侍ときこえ
  給御かたちことにてもなまめかしうなつ
  かしきさまにうちしのひやつれ給て
  るハしき御ほうふくならすすみそめ
  の御すかたあらまほしうきよらなるもうら」(15ウ・1238B)
0037【あらまほしう】−源心

  やましくみたてまつり給れいのまつなミた
  おとし給わつらひ給御さまことなるなやミ
  にも侍らすたゝ月ころよハり給へる御あり
  さまにはか/\しうものなともまいらぬつもり
  にやかくものし給ふにこそなときこえた
  まふかたハらいたきおましなれともとて
  御丁のまへに御しとねまいりていれ奉
  り給宮越もとかう人/\つくろひきこえ
  てゆかのしもにおろし奉る御き丁すこし
  をしやらせ給てよひのかちのそうなとの」(16オ・1238G)

  心ちすれとまたけむつくはかりのをこ
  なひにもあらねはかたハらいたけれと
  たゝおほつかなくおほえ給らんさまを
  なからみ給へきなりとて御めをしのこハせ
  給宮もいとよハけにない給ていく
  へうもおほえ侍らぬ越かくおハし
  まいたるついてにあまになさせ給てよ
  ときこえ給さる(△&
る)御本いあらはいとたう
  ときことなる越さすかにかきらぬいのちの
  ほとにて行すゑと越き人ハかへりて」(16ウ・1238L)

  ことのみたれありよの人にそしらるゝやう
  ありぬへきなんとのたまハせておとゝの
  きみにかくなんすゝみのたまう越いま
  ハかきりのさまならはかた時のほとにても
  そのたすけあるへきさまにてとなん
  給ふるとの給へはひころもかくなんの給へと
  さけなんとの人の心たふろかしてかゝるかた
  にてすゝむるやうもはへなる越とてきゝも
  いれはへらぬなりときこえ給ものゝけの
0038【ものゝけのをしへにても】−朱ー詞
  をしへにてもそれにまけぬとてあしかるへき」(17オ・1239D)

  ことならはこそはゝからめよハりにたる人の
  かきりとてものし給ハんこと越きゝすくさむ
  ハのちのくい心くるしうやとの給御心の
  うちかきりなううしろやすくゆつりを
  きし御事越うけとりたまひてさしもこゝろ
  さしふかゝらすわかおもふやうにハあらぬ御
  けしき越ことにふれつゝとしころきこし
  めしおほしつめける事いろにいてゝうらみ
  きこえ給へきにもあらねはよの人のお
  もひいふらん所もくちおしうおほしわたるに」(17ウ・1239I)

  かゝるおりにもてはなれなんもなにかは人
  ハらハへによ越うらみたるけしきならてさも
  あらさらんおほかたのうしろみにハな越たの
  まれぬへき御おきてなる越たゝあつけを
  き奉りししるしにはおもひなしにく
  けにそむくさまにハあらすとも御そうふん
  にひろくおもしろき宮給ハり給へるを
  つくろひてすませたてまつらんわかおハし
  ますよにさるかたにてもうしろめたからす
  きゝおきまたかのおとゝもさいふともいと」(18オ・1240@)

  をろかにハよもおもひはなち給ハしその
  心はへをもみはてんとおもほしとりてさらは
  かくものしたるついてにいむ事うけたまハん
  をたにけちえんにせんかしとのたまハす
  おとゝのきみうしとおほすかたもわすれて
0039【おとゝのきみ】−源
  こハいかなるへき事そとかなしくくちおし
  けれはえたへ給ハすうちにいりてなとか
0040【なとかいくはくも】−<朱合点> 古今 いく世しもあらし我身をなとてかく海人ノかるもに思みたるゝ
  いくはくも侍ましき身越ふりすてゝかうハ
  おほしなりにけるな越しハし心越しつめ
  給て御ゆまいりものなとをもきこしめせ」(18ウ・1240F)

  たうときことなりとも御身よはうてハをこ
  なひもし給てんやかつハつくろひ給てこそと
  きこえ給へとかしらふりていとつらうの
  給ふとおほしたりつれなくてうらめしと
  おほす事もありけるにやと見たてまつり
  給にいと越しうあはれなりとかくきこえ
  かへさひおほしやすらふほとに夜あけかたに
  なりぬかへりいらんにみちもひるハはしたなかる
  へしといそかせ給て御いのりにさふらふ中に
  やんことなうたうときかきりめしいれて御」(19オ・1240K)

  くしおろさせ給いとさかりにきよらなる
  御くし越そきすてゝいむ事うけ給さほう
  かなしうくちおしけれはおとゝハえしのひ
  あへ給はすいみしうない給院はたもと
  よりとりわきてやむことなく人よりも
  すくれて見奉らんとおほしし越このよ
  にハかひなきやうにない奉るもあかす
  かなしけれはうちしほたれ給かくてもたいらか
  にておなしうハ念すをもつとめ給へときこえ
  おき給てあけはてぬるにいそきていてさせ」(19ウ・1241C)

  給ぬ宮はな越よはうきえいるやうにし
  たまひてはか/\しうもえみ奉らすもの
  なともきこえ給ハすおとゝもゆめのやうに
  思たまへみたるゝ心まとひにかうむかし
  おほえたるミゆきのかしこまり越もえ御
  らんせられ(△&
れ)ぬらうかハしさハことさらにまいり
  はんへりてなんときこえたまふ御をくりに
  人々まいらせ給世中のけふかあすかに
0041【世中の】−朱詞
  おほえ侍しほとに又しる人もなくてたゝ
0042【又しる人もなくて】−<朱合点> 古今 枕より又しる人も
  よハんことのあはれにさりかたうおほえはへ」(20オ・1241H)

  しかは御ほいにハあらさりけめとかくきこえ
  つけてとしころは心やすくおもひ給へ
  つる越もしもいきとまり侍らはさまことに
  かハりて人しけきすまひはつきなかる
  へきをさるへき山さとなとにかけはなれ
  たらむありさまも又さすかに心ほそかるへ
  くやさまにしたかひてな越おほしはな
  つましくなときこえ給へハさらにかくまて
0043【さらにかくまて】−源詞
  おほせらるゝなんかへりてはつかしう思
  たまへらるゝみたれ心ちとかくみたれ侍て」(20ウ・1241M)

  なに事もえわきまへ侍らすとてけにいと
  たへかたけにおほしたりこやの御かちに御ものゝ
0044【御ものゝけ】−六条御息所死霊
  けいてきてかうそあるよいとかしこうとり
  かへしつとひとり越はおほしたりしかいと
  ねたかりしかはこのわたりにさりけなくて
  なんひころさふらひつるいまはかへりなんとて
  うちわらふいとあさましうさハこのものゝ
0045【うちわらふ】−邪気
  けのこゝにもはなれさりけるにやあらんとおほ
  すにいとおしうくやしうおほさる宮すこし
  いきいて給やうなれとな越たのミかたけに」(21オ・1242E)

  のミ見え給さふらふ人々もいといふかひなう
  おほゆれとかうてもたいらかにたにおハし
  まさハとねんしつゝみすほう又のへて
  たゆミなくをこなはせなとよろつにせ
  させ給かのゑもんのかミハかゝる御こと越きゝ
  たまふにいとゝきえいるやうにし給むけに
  たのむかたすくなうなり給にたり女宮の
0046【女宮の】−落ー
  あはれにおほえ給へはこゝにわたり給ハん事
  ハいまさらにかる/\しきやうにあらん越
  うへもおとゝもかくつとそひおハすれは」(21ウ・1242J)
0047【うへも】−柏木母

  をのつからとりはつしてみたてまつり給
  やうもあらむにあちきなしとおほして
  かの宮にとかくしていまひとたひまうてん
  との給をさらにゆるしきこへたまハす
  たれにもこの宮の御事越きこえつけ給
0048【この宮】−落ー
  はしめより(り
はゝ<朱>)みやすところハおさ/\心ゆき
  給ハさりしをこのおとゝのゐたちねん
  ころにきこえ給て心さしふかゝりしに
  まけ給て院にもいかゝはせんとおほし
0049【院にも】−朱ー
  ゆるしける越二品の宮の御事おもほし」(22オ・1243B)
0050【二品の宮】−女三

  みたれけるついてに中/\この宮ハゆく
  さきうしろやすくまめやかなるうしろミ
  まうけ給へりとの給ハすときゝ給しを
  かたしけなうおもひいつかくて見すて
  奉りぬるなめりと思ふにつけてハさま/\に
  いとお(△&
お)しけれと心よりほかなるいのちな
  れはたへぬちきりうらめしうておほし
  なけかれんか心くるしきこと御心さし
  ありてとふらひものせさせ給へとはゝうへ
  にもきこえ給ふいてあなゆゝしをくれ奉て」(22ウ・1243G)

  ハいくはくよにふへき身とてかうまて
  ゆくさきのこと越ハのたまふとてなきに
  のミなき給へハえきこえやり給ハす右大
0051【右大弁の君】−柏弟(弟#
弟)
  弁の君にそおほかたの事ともハくハしう
  きこえ給心はへののとかによくおハし
  つる君なれはおとうとのきみたちも
  又すゑ/\のわかきハおやとのミたのミ
  きこえ給へるにかう心ほそうの給ふを
  かなしとおもはぬ人なくとのゝうちの人
  もなけくおほやけもおしミくちおし」(23オ・1243L)

  からせ給かくかきりときこしめして
  にハかに権大納言になさせ給へりよろこひ
  におもひおこしていまひとたひもまいり
  給やうもあるとおほしの給はせけれと
  さらにえためらひやり給ハてくるしき
  なかにもかしこまり申給おとゝもかくをもき
  御おほえを見給ふにつけてもいよ/\かな
  しうあたらしとおほしまとふ大将の君
0052【大将の君】−夕
  つねにいとふかうおもひなけきとふらひき
  こえ給御よろこひにもまつまうてたまへり」(23ウ・1244C)

  このおはするたいのほとりこなたのみかとハ
  むまくるまたちこみ人さはかしうさハき
  みちたりことしとなりてハおきあかる
  事もおさ/\し給はねはをも/\しき
  御さまにみたれなからハえたいめし給はて
  おもひつゝよハりぬることゝおもふにくちおし
  けれはな越こなたにいらせたまへいとらう
  かハしきさまに侍つミハをのつからおほし
  ゆるされなんとてふし給へるまくらかミ
  のかたにそうなとしハしいたし給ていれ」(24オ・1244H)

  奉り給ハやうよりいさゝかへたて給こと
  なうむつひかハし給御中なれはわかれん
  ことのかなしうこひしかるへきなけきおや
  はらからの御おもひにもをとらすけふは
  よろこひとて心ちよけならましをと
  思にいとくちおしうかひなしなとかく
  たのもしけなくはなり給にけるけふは
  かゝる御よろこひにいさゝかすくよかにも
  やとこそ思ひ侍つれとて木丁のつまを
  ひきあけ給へれはいとくちおしう」(24ウ・1244M)

  その人にもあらすなりにて侍やとて
  えほうしハかりおしいれてすこしおき
  あからむとし給へといとくるしけなりしろ
  ききぬとものなつかしうなよゝかなるを
  あまたかさねてふすまひきかけてふし
  給へりおましのあたりものきよけに
  けハひかうはしう心にくゝそすみなし
  給へるうちとけなからよういハありと
  みゆをもくわつらひたる人はをのつから
  かみひけもみたれものむつかしきけは」(25オ・1245D)

  ひもそふわさなる越やせさり(り<朱>)ほいたるし
0053【やせさらほいたる】−[骨+堯]庄子
  もいよ/\しろうあてなるさまして
  まくら越そはたてゝものなときこえ
  給けはひいとよハけにいきもたえつゝ
  あはれけなりひさしうわつらひ給へる
  ほとよりハことにいたうもそこなハれ給
  ハさりけりつねの御かたちよりも中/\
  まさりてなんみえ給との給ものから
  おしのこひてをくれさきたつへたてなく
0054【をくれさきたつ】−<朱合点>
  とこそちきりきこえしかいみしうもある」(25ウ・1245I)

  かなこの御心ちのさま越なに事にて
  をもり給とたにえきゝわき侍らすかくし
  たしきほとなからおほつかなくのミなと
  の給に心にハをもくなるけちめもおほえ
0055【心にハをもく】−柏詞
  侍らすそこ所とくるしきこともなけれ
  はたちまちにかうもおもひ給へさりし
  ほとに月日もへてよハり侍にけれはいま
  ハうつし心もうせたるやうになんおし
0056【うつし心も】−現
  けなき身越さま/\にひきとゝめらるゝ
  の(の+
り)くわんなと(と+の)ちからにやさすかにかゝつゝ」(26オ・1246A)

  ふも中/\くるしう侍れは心もてなん
  いそきたつ心ちし侍さるハこのよのわかれ
  さりかたきことハいとおほうなんおやにも
  つかふまつりさしていまさらに御心ともを
  なやまし君につかふまつることも中ハの
  ほとにて身越かへりみるかたはたまして
  はか/\しからぬうらみ越とゝめつるおほかた
  のなけき越はさるものにてまた心の
  うちに思ひたまへみたるゝ事の侍るを
  かゝるいまはのきさミにてなにかはもらす」(26ウ・1246F)

  へきとおもひ侍れとな越しのひかたき
  こと越たれにかはうれへ侍らんこれかれあ
  またものすれとさま/\なることにてさらに
  かすめ侍らむもあいなしかし六条院に
  いさゝか(か$
)なる事のたかひめありて月ころ
  心のうちにかしこまり申事なん侍しを
  いとほいなうよの中心ほそう思なりて
  やまひつきぬとおほえ侍しにめしありて
  院の御賀のかく所のこゝろみの日まいり
  て御けしき越たまハりしにな越ゆるされ」(27オ・1246K)

  ぬ御心はへあるさまに御ましり越み奉
  り侍ていとゝよになからへんこともはゝかり
  おほうおほえなり侍てあちきなう
  おもひ給へしに心のさはきそめてかく
  しつまらすなりぬるになん人かすにハ
  おほしいれさりけめといハけなう侍し
  ときよりふかうたのミ申心の侍しを
  いかなるさうけんなとの有けるにかとこれ
0057【さうけん】−讒言
  なんこのよのうれへにてのこり侍へけれ
  はろんなうかののちのよのさまたけに」(27ウ・1247B)

  もやとおもひ給ふをことのついて侍らは
  御みゝとゝめてよろしうあきらめ申させ
  たまへなからんうしろにも此かうしゆるされ
0058【かうし】−考
  たらんなむ御とくに侍へきなとの給まゝ
  にいとくるしけにのミ見えまされはいみしう
  て心のうちに思ひあはする事とも
  あれともさしてたしかにハえしもおし
  はからすいかなる御心のおにゝかハさらに
  さやうなる御けしきもなくかくをもり
  給へるよし越もきゝをとろきなけき」(28オ・1247G)

  給ことかきりなうこそくちおしかり申給
  めりしかなとかくおほす事あるにてハ
  いまゝてのこひ給ひつらんこなたかなた
  あきらめ申すへかりけるもの越いまは
  いふかひなしやとてとりかへさまほしうかな
  しくおほさるけにいさゝかもひまありつる
  おりきこえうけ給はるへうこそハ侍りけれ
  されといとかうけふあすとしもやハとみつ
0059【されと】−柏詞
0060【けふあすとしも】−<朱合点> つゐにゆく道と
  からなからしらぬいのちのほと越おもひ
  のとめ侍けるもはかなくなんこのことは」(28ウ・1247M)

  さらに御心よりもらし給ましさるへき
  ついて侍らむおりには御ようゐくはへ
  給へとてきこえをくになん一条にものし
  給宮ことにふれてとふらひきこえ給へ
0061【宮】−落
  心くるしきさまにて院なとにもきこし
  めされたまハんをつくろひ給へなとの給
  いはまほしきことハおほかるへけれと心ち
  せんかたなくなりにけれはいてさせ
  給ひねとてかききこえ給かちまいる
  そうともちかうまいりうへおとゝなとも」(29オ・1248D)
0062【うへ】−母

  おハしあつまりて人/\もたちさハけは
  なく/\いて給ぬ女御をはさらにも
  きこえすこの大将の御かたなともいミし
  うなけき給心をきてのあまねく
  人のこのかみ心にものし給けれは
  右の大とのゝきたのかたもこのきみを
  のミそむつましきものにおもひきこえ
  たまひけれはよろつに思ひなけき
  給て御いのりなととりわきてせさせ
  給けれとやむくすりならねハかひなき」(29ウ・1248H)
0063【やむくすり】−<朱合点> われこそハみぬ人こふるやまひすれあふより外のやむくすりなし<朱>

  わさになんありける女宮にもつゐにえ
  たいめしきこえ給ハてあハのきえ入
0064【あはのきえ入やうにて】−<朱合点> 古今 水の泡の消てうき世としりなからかゝりて猶もたのまるゝかな
  やうにてうせ給ぬとしころしたの心
  こそねんころにふかくもなかりしかおほ
  かたにいとあらまほしくもてなしかし
  つききこえてけなつかしう心はへ
  をかしううちとけぬさまにてすくひ給ひ
  けれはつらきふしもことになしたゝ
  かくみしかゝりける御みにてあやしく
  なへてのよすさましくおもひ給ける」(30オ・1248M)

  なりけりと思ひいて給にいみしうてお
  ほしいりたるさまいと心くるし宮す所も
  いみしう人ハらへにくちおしとみ奉り
  なけき給ことかきりなしおとゝきたの
  かたなとハましていはむかたなく我こそ
  さきたゝめよのことハりなくつらいことゝ
  こかれ給へとなにのかひなしあま宮ハ
0065【あま宮】−女三
  おほけなき心もうたてのミおほされて
  よになかゝれとしもおほさゝりし越
  かくなときゝ給ハさすかいとあハれなり」(30ウ・1249D)

  かしわか君の御こと越さそとおもひたりしも
  けにかゝるへきちきりにてや思ひのほかに
  心うきこともありけむとおほしよるに
  さま/\もの心ほそうてうちなかれ給ぬ
  やよひになれはそらのけしきももの
  うららかにてこのきミいかのほとになり
0066【いかのほとに】−五十日
  給ていとしろううつくしうほとよりハ
  をよすけてものかたりなとし給おとゝハ
  わたり給て御心ちさハやかになり給に
0067【御心ち】−源詞
  たりやいてやいとかひなくも侍かなれいの」(31オ・1249I)

  御ありさまにてかくみなしたてまつらまし
  かはいかにうれしう侍らまし心うく
  おほしすてけることゝなみたくミてうら
  みきこえ給日々にわたり給て(日々にわたり給て$1)いましも
  やむことなくかきりなきさまにもてなし
  きこえ給御(御$2)いかにもちゐまいらせ給はん
  とてかたちことなる御ありさまを人/\いか
  になときこえやすらへは院わたらせ給
  てなにか女にものし給ハゝこそおなし
  すちにていま/\しくもあらめとて」(31ウ・1250@)

  みなミおもてにちいさきおましなとよそ
  ひてまいらせ給御めのといとはなやかに
  さうそきておまへの物色/\をつくしたる
  こものひハりこの心はへともをうちにも
  とにももとの心越しらぬことなれはとりちらし
  なに心なきをいと心くるしうまはゆ
0068【いと心くるしう】−柏五旬
0069【まはゆきわさなりや】−非源子
  きわさなりやとおほす宮もおきゐ
0070【宮も】−女三
  給て御くしのすゑのところせうひろこり
  たるをいとくるしとおほしてひたひなと
  なてつけておはするにき丁をひき」(32オ・1250E)

  やりてゐさせ給へはいとはつかしうて
  そむかせ給へるいとゝちいさうほそり給
  て御くしハおしみきこえてなかうそ
  きたりけれはうしろはことにけちめ
  もみえ給ハぬほとなりすき/\みゆる
  にひいろともきかちなるいまやう
  いろなとき給てまたありつかぬ
  御かたハらめかくてしもうつくしき子
  ともの心ちしてな(な+
ま)めかしうおかしけ
  なりいてあな心うすみそめこそな越」(32ウ・1250J)

  いとうたてめもくるゝ色なりけれかやう
  にてもみたてまつることハたゆ(ゆ=
ツ)ましき
  そかしと思ひなくさめ侍れとふりかたふ
  わりなき心ちするなみたの人わろさ
  をいとかうおもひすてられ奉る身の
  とかに思ひなすもさま/\にむねいたう
  くちおしうなんとりかへすものにもかな
0071【とりかへすものにもかなや】−<朱合点> 古今 とりかへす物にもかなや世中を
  やとうちなけき給ていまハとておほし
  はなれはまことに御心といとひすて給
  けるとはつかしう心うくなんおほゆへき」(33オ・1251A)

  な越あはれとおほせときこえ給へハかゝる
  さまの人ハものゝあはれもしらぬものと
  きゝし越ましてもとよりかゝらぬこと
  にていかゝハきこゆへからむとのたまへは
  かひなのことやおほししるかたもあらむ
0072【かひなのことや】−源
  ものをとはかりの給さしてわかきミ越
  見奉り給御めのとたちハやむことなく
  めやすきかきりあまたさふらふめしいてゝ
  つかうまつるへき心をきてなとの給
  はれのこりすくなきよにおひいつへき」(33ウ・1251F)

  人にこそとていたきとり給へハいと心や
  すくうちゑミてつふ/\とこえてしろう
  うつくし大将なとのちこをひほのかに
  おほしいつるにハに給ハす女御の御宮
  たちハたちゝみかとの御方さまにわうけ
0073【わうけつきて】−王孫
  つきてけたかうこそおハしませことにす
  くれてめてたうしもおハせすこの君
  いとあてなるにそへてあいきやうつき
  まみのかほりてゑ(ゑ+
ミ)かちなるなと越いとあ
  はれと見給ふ思ひなしにやな越いと」(34オ・1251K)

  ようおほえたりかしたゝいまからまなこ
  ゐのとかにはつかしきさまもやうはな
  れてかほりおかしきかほさまなり宮ハ
  さしもおほしわかす人はたさらにしら
  ぬことなれはたゝひとゝころの御心のうち
  のミそあはれにはかなかりける人のちきり
  かなとみ給におほかたのよのさためなさも
  おほしつゝけられてなみたのほろ/\と
  こほれぬる越けふハこといミすへきをとをし
  のこひかくし給てしつかにおもひてなけくに」(34ウ・1252B)

  たえたりうちすんし給五十八をとをとり
0074【五十八をとをとりすてたる】−白楽天子生遅にむかひてつくれる詩云 五十八翁方有後静思堪喜又堪嗟持盃祝願無他語慎勿頑愚似汝爺
  すてたる御よハひなれとすゑになりたる
0075【御よはひ】−源四十八
  心ちし給ていとものあハれにおほさる
  なんちかちゝにともいさめまほしうおほし
  けむかしこのことの心しれる人女房の
  なかにもあらんかししらぬこそねたけれ
  おこなりとみるらんとやすからすおほせ
  とわか御とかあることハあへなんふたついはん
  にハ女の御ためこそいとをしけれなとお
  ほしていろにもいたしたまハすいとなに」(35オ・1252H)

  心なうものかたりしてハらひ給へるまみ
  くちつきのうつくしきも心しらさらむ
  人ハいかゝあらんな越いとよくにかよひたり
  けりとみたまふにおやたちのこたに
  あれかしとない給らんにもえみせす
  しれすはかなきかたミはかりをとゝめ
  をきてさハかりおもひあ(あ+
か)りおよすけたりし
  み越心もてうしなひつるよとあはれに
  おしけれハめさましとおもふこゝろもひき
  かへしうちなかれ給ぬ人々すへりかく」(35ウ・1252L)

  れたるほとに宮の御もとにより給てこの
  人をはいかゝみ給やかゝる人をすてゝそ
  むきはて給ひぬへきよにやありける
  あな心うとおとろかしきこえ給へはかほ
  うちあかめておハす
    たか世にかたねハまきしと人とハゝ
0076【たか世にか】−源氏
  いかゝいはねの松はこたへんあハれなりなと
  しのひてきこえ給に御いらへもなうて
  ひれふし給へりことハりとおほせハ
0077【ひれ】−領巾
  ゐてもきこえ給ハすいかにおほすらんも」(36オ・1253D)

  のふかうなとハおハせねといかてかたゝにハと
  おしはかりきこえ給もいと心くるしう
  なん大将のきみハかの心にあまりてほの
0078【大将のきみ】−夕
0079【かの心に】−衛門督事
0080【ほのめかしいてたりしを】−女三
  めかしいてたりしをいかなることにかありけん
  すこし物おほえたるさまならましかは
  さハかりうちいてそめたりしにいとよう
  けしきはミてましをいふかひなきと
  ちめにておりあしういふせくあはれ
  にもありしかなとおもかけわすれかたうて
  はらからの君たちよりもしいてかなしと」(36ウ・1253I)

  おほえ給けり女宮のかくよ越そむき給へる
  ありさまおとろ/\しき御なやミにもあらて
  すかやかにおほしたちけるほとよ又さりとも
  ゆるしきこえ給へきことかは二条のうへの
0081【二条のうへ】−紫尼君
  さはかりかきりにてなく/\申給ときゝし
  をハいみしきことにおほしてついにかくかけ
  とゝめたてまつるもの越なととりあつめて
  おもひくたくにな越むかしよりたえす
  見ゆる心はへえしのハぬ折/\ありき
  かしいとようもてしつめたるうはへハ人」(37オ・1254A)

  よりけによういありのとかになに事越
  この人の心のうちにおもふらんとみる人も
  見ゆることもくるしきまてありしかと
  すこしよハきところつきてなよひすき
  たりしそかしいみしうともさるまし
  きことに心越みたりてかくしも身に
  かふへき事にやハありける人のためにも
  いとおしう我身はいたつらにやなすへ
  きさるへきむかしのちきりといひなからいと
  かる/\しうあちきなきことなりかし」(37ウ・1254F)

  なと心ひとつにおもへと女君にたにきこえ
0082【心ひとつに】−夕
  いて給ハすさるへきついてなくて院にも
  またえ申給ハさりけりさるハかゝること越
  なんかすめしと申いてゝ御けしきもみま
  ほしかりけりちゝおとゝはゝきたの方
  はなみたのいとまなくおほししつミて
  はかなくすくるひかす越もしり給ハす
0083【すくるひかすを】−<朱合点> 物おもふとすくる月日をしらぬまに雁こそ鳴て秋とつけくれ
0084【御わさ】−ヲン
  わさのほうふく御さうそくなにくれ
  のいそきをも君たち御かた/\とり/\に
  なんせさせ給けるきやうほとけのおきて」(38オ・1254K)

  なとも右大弁のきみせさせ給なぬか/\
  の御すきやうなと越人のきこえおと
  ろかすにもわれになきかせそかくいみしと
0085【われになきかせそ】−父母心
  おもひまとふに中/\みちさまたけにも
0086【みちさまたけにも】−<朱合点> 拾 おもふ事ありてこそ行ケ春かすミみちさまたけニ立なかくしそ
  こそとてなきやうにおほしほれたり
  条の宮にハましておほつかなくてわかれ
  給にしうらみさへそひて日ころふるまゝ
  にひろき宮のうち人けすくなう心
  ほそけにてしたしくつかひなれ給し
  人ハな越まいりとふらひきこゆこのミ」(38ウ・1255B)

  給したかむまなとそのかたのあつかり
  ともゝみなつくところなうおもひうして
  かすかにいている越見給もことにふれて
  あはれハつきぬものになんありけるもて
  つかひ給し御てうとゝもつねにひき給し
  ひわわこんなとのをもとりはなちやつされて
  ねはたてぬもいとうもれいたきわさな
  りや御まへの木たちいたうけふりて
  はなハ時越わすれぬけしきなる越なかめ
  つゝものかなしくさふらふ人/\もにひ色に」(39オ・1255G)

  やつれつゝさひしうつれ/\なるひるつ
  かたさきはなやかにをふをとしてこゝに
  とまりぬる人ありあハれことのゝ御けハひ
  とこそうちわすれておもひつれとて
  なくもあり大将とのゝおハしたるなりけり
  御せうそこきこえいれ給へりれいの弁の
  きみさいしやうなとのおハしたるとおほし
  つる越いとはつかしけにきよらなるもて
  なしにていり給へりもやのひさしにお
  ましよそひていれ奉るをしなへたる」(39ウ・1255L)

  やうに人/\のあへしらひきこえむハかた
  しけなきさまのし給へれはみやす所
0087【みやす所】−落ー母
  そたいめし給へるいみしきこと越思ひ給へ
  なけく心はさるへき人/\にもこえて侍れ
  とかきりあれはきこえさせやるかたなう
  てよのつねになり侍にけりいまはの程
0088【よのつねになり】−<朱合点> 恋しきハうき世ノつねニ成ゆくを心ハ猶そ物思ひける
  にの給をく事侍しかはをろかならす
  なむたれものとめかたきよなれとをくれ
  さきたつほとのけちめにハ思ひ給へをよハ
  むにしたかひてふかき心のほと越も御」(40オ・1256C)

  らんせられにしかなとなん神わさなとの
  しけきころをひわたくしの心さしに
  まかせてつく/\とこもり侍らむもれい
  ならぬ事あ(あ#
な)りけれハたちなからハた中/\
  にあかす思ひ給へらるへうてなんひころを
  すくし侍にけるおとゝなとの心をみたり
  給さまみきゝ侍につけてもおやこのみち
  のやミ越はさるものにてかゝる御中らひの
  ふかくおもひとゝめ給けん程越おしはかり
  きこえさするにいとつきせすなんとて」(40ウ・1256H)

  しは/\おしのこひはなうちかみ(み<朱>)あさ
  やかにけたきものからなつかしうなまめい
  たり宮す所もはなこゑになり給て
  あはれなることはそのつねなきよの
  さかにこそハいみしとても又たくひなき
  ことにやハと(ハと&
ハと)としつもりぬる人ハしゐて
  心つようさまし侍るをさらにおほし
  入たるさまのいとゆゝしきまてしハしも
  たちをくれ侍ましきやうに見え侍れ
  はすへていと心うかりけるみのいまゝて」(41オ・1257@)

  なからへ侍てかくかた/\にはかなきよの
  すゑのありさまをミ給へすくへきにやと
  いとしつ心なくなんをのつからちかき御
  なからひにてきゝをよハせ(ひ&
ハせ)給やうも侍けん
  はしめつかたより(/\&
より)おさ/\うけひききこえ
0089【うけひき】−承諾
  さりし御こと越おとゝの御心むけも心くるし
  う院にもよろしきやうにおほしゆるいたる
  御けしきなとの侍しかはさらはミつからの
  心をきてのをよはぬなりけりと思給
  なしてなん見奉るをかくゆめのやうなる」(41ウ・1257E)

  こと越見給るに思給へあハすれははかなき
  みつからの心のほとなんおなしうハつようも
  あらかひきこえまし越とおもひ侍にな越
  いとくやしうそれハかやうにしもおもひより
  侍らさりきかしみこたちハおほろけ
  のことならてあしくもよくもかやうによつ
  き給ふ事ハ心にくからぬことなりとふる
  めき心にハおもひ侍しをいつかたにもよら
  すなか空にうき御すくせなりけれは
  なにかはかゝるついてにけふりにもまきれ」(42オ・1257J)

  給なんハこの御身のための人きゝなとハ
  ことにくちをしかるましけれとさりとても
  しかすくよかにえ思しつむましうハなし(ハなし
<朱>)
  かなしうみたてまつり侍にいとうれしう
  あさからぬ御とふらひのたひ/\になり
  侍める越ありかたうもときこえ侍もさら
  ハかの御ちきりありけるにこそハとおもふ
  やうにしもみえさりし御心はへなれと
  いまハとてこれかれにつけをき給ける
  ゆいこんのあハれなるになんうきにも」(42ウ・1258B)
0090【うきにもうれしきせは】−<朱合点> うれしきもうきも心ハ一にてわすれぬ物ハ涙なりけり

  うれしきせはましり侍けるとていと
  いたうない給けはひなり大将もとみに
  えためらひ給ハすあやしくいとこよ
  なくおよすけ給へりし人のかゝるへう
  てやこの二三年のこなたなんいたう
  しめりてもの心ほそけにみえ給しかは
  あまりよのことハりを思ひしりものふ
  かうなりぬる人のすみすきてかゝるた
0091【すみすきて】−<朱合点> とにかくニ物ハおもはすひたゝくみうつすミなハのたゝ一すちに
  めし心うつくしからすかへりてハあさ
  やかなるかたのおほへく(く
<朱>)うすらくもの」(43オ・1258F)

  なりとなんつねにはか/\しからぬ心に
  いさめきこえしかは心あさしと思給へりし
  よろつよりも人にまさりてけにかの
  おほしなけくらん御心のうちのかたしけ
  なけれといとこゝろくるしうも侍かな
  なとなつかしうこまやかにきこえ給て
  やゝほとへてそひ(ひ
<朱>)て給かの君ハ五六年の
  程のこのかみなりしかとな越いとわかやか
  になまめきあひたれてそものし給し
  これハいとすくよかにをも/\しくおゝし」(43ウ・1258K)

  きけハひしてかほのミいとわかうきよら
  なる事人にすくれ給へるわかき人/\ハ
  ものかなしさもすこしまきれてみいたし
  奉るおまへちかきさくらのいとおもしろき
  をことしはかりハとうちおほゆるもいま/\
0092【ことしはかりハと】−<朱合点> 古今 深草<クサ>野への
  しきすちなりけれはあひみむことはと
0093【あひみむことはと】−<朱合点> 古今 春ことに花ノさかりハ
  くちすさひて
    時しあれはかハらぬ色ににほひけり
0094【時しあれは】−夕霧
  かたへかれにしやとのさくらもわさとなら(ら
<朱>)
  すしなしてたち給にいとゝう」(44オ・1259C)

    この春ハやなきのめにそたまハぬく
0095【この春ハ】−宮息所
  さきちる花のゆくゑしらねはときこえ
  給いとふかきよしにハあらねといまめ
  かしうかとありとはいはれたまひし
  かういなりけりけにめやすきほとのよう
  いなめりと見給うやかてちしの大殿に
  まいり給へれはきみたちあまたもの
  し給けりこなたにいらせ給へとあれはおとゝ
  の御いてゐのかたに入給へりためらひてたい
  めんし給へりふりかたうきよけなる御」(44ウ・1259H)

  かたちいとやせおとろへて御ひけなとも
  とりつくろひ給ハねハしけりておやのけう
  よりもけにやつれ給へりみ奉り給より
  いとしのひかたけれはあまりおさまらす
  みたれおつる涙こそはしたなけれと思へハ
  せめてもてかくし給おとゝもとりわき
  御中よくものし給しをと見給にたゝ
  ふりにふりおちてえとゝめ給ハすつきせぬ
  御ことゝもをきこえかハし給一条の宮に
  まうてたまへるありさまなときこえ」(45オ・1260@)

  給いとゝしくはるさめかとみゆるまて
  のきのしつくにことならすぬらしそへ
  給たゝむかみにかのやなきのめにそと
  ありつる越かい給へるを奉り給へハめも
0096【奉り給へハ】−致ー
  みえすやとをししほりうちひそミつゝ
  見給御さまれいハ心つようあさやかに
  ほこりかなる御けしきなこりなく
  わろしさるハことなる事なかめれとこの
  たまハぬくとあるふしのけにとおほさるゝ
  に心みたれてひさしうえためらひ給」(45ウ・1260E)

  ハす君の御はゝ君かくれ給へりし秋なん
0097【君】−夕
0098【御はゝ君】−葵上
  よにかなしきことのきハにハおほえ侍しを
  女ハかきりありてみる人すくなうとある
  こともかゝる事もあらハならねはかなし
  ひもかくろへてなむありけるはか/\し
  からねとおほやけもすて給ハすやう/\
  人となりつかさくらゐにつけてあいたの
  む人/\をのつからつき/\におほうなり
  なとしておとろきくちをしかるも
  いにふれてあるへしかうふかきおもひハ」(46オ・1260J)

  その大かたのよのおほえもつかさくらゐも
  おもほえすたゝことなることなかりしみつ
  からのありさまのミこそたへかたくこひし
  かりけれなにはかりのことにてか思さます
  へからむと空越あふきてなかめ給ゆふくれ
0099【ゆふくれの雲のけしき】−<朱合点> 夕暮ノ雲ノ気しキをみるからニなかめしとおもふ心こそつけ
  の雲のけしきにひいろにかすみてはな
  のちりたるこすゑともをもけふそめとゝ
  め給この御たゝむかみに
    このしたのしつくにぬれてさかさまに
0100【このしたの】−致仕のおとゝ子ニヨソヘタリ
  かすみのころもきたる春かな大将のきミ」(46ウ・1261B)
0101【大将のきミ】−夕霧

    なき人もおもハさりけんうちすてゝ
  ゆふへのかすミ君きたれとハ弁のきみ
0102【弁のきみ】−衛門督おとゝ也
    うらめしやかすみのころもたれきよと
  春よりさきに花のちりけん御わさなと
  よのつねならすいかめしうなんありける
  大将とのゝきたのかたをはさるものにて
  殿ハ心ことにすきやうなともあはれに
  ふかき心はへをくハへ給かの一条の宮にも
  つねにとふらひきこえ給うつきハかりの
  うの花ハそこはかとなう心ちよけに」(47オ・1261H)

  ひとつ色なるよものこすゑもをかしうみえ
0103【ひとつ色なる】−<朱合点> みとりなる一色とそ春ハみし
  わたるをもの思ふやとハよろつのことに
0104【もの思ふやとハ】−<朱合点> 古今 鳴わたるかりの涙や
  つけてしつかに心ほそくくらしかね給に
  れいのわたり給へりにハもやう/\あ越ミ
  いつるわか草みえわたりこゝかしこのすな
  こうすきものゝかくれのかたによもきも
  ところゑかほなりせんさいに心いれて
  つくろひ給しも心にまかせてしけり
  あひ一むらすゝきもたのもしけに
0105【一むらすゝきも】−<朱合点> 古今 君かうへし一むらすゝき虫の音の
  ひろこりてむしのねそハん秋おもひ」(47ウ・1261M)

  やらるゝよりいとものあハれに露けくて
  わけいり給いよすかけわたしてにひ
  いろのき丁ころもかへしたるすきかけ
  すゝしけにみえてよきハらハのこまや
  かににはめるかさみのつまかしらつきなと
0106【かさみ】−汗衫
  ほのみえたるおかしけれとな越めおと
  ろかるゝ色なりかしけふハすのこに
  ゐ給へハしとねさしいてたりいとかろらか
  なるおましなりとてれいの宮す所
  おとろかしきこゆれとこのころなや」(48オ・1262D)

  ましとてよりふし給へるとかくきこえ
  まきらハすほとおまへのこたちとも
  もふことなけなるけしき越見給もいと
  ものあハれなりかしハきとかえてとの
  のよりけにわかやかなる色してえたさし
  かハしたる越いかなるちきりにかすゑ
  あへるたのもしさよなとの給てしの
  ひやかにさしよりて
    ことならハならしの枝にならさなむ
0107【ことならハ】−夕霧 如此
0108【ならしの】−なるゝ心也
  はもりの神のゆるしありきとみすの」(48ウ・1262H)
0109【はもりの神】−故衛門督ニタトフルナリ

  とのへたてあるこそうらめしけれとて
  なけしによりゐ給へりなよひすかたハた
  いといたうた越やきけるをやとこれ
  かれつきしろふこの御あへしらへき
  こゆる少将のきみといふ人して
    柏木にはもりのかみハまさすとも
0110【柏木に】−宮息所
0111【はもりのかみ】−我やとヲいつかは君かならの葉のならしかほにもおりにおこする としこ返事 かしは木に葉もりの神のましけるをしらてそおりしたゝりなさるな 左大臣仲平
  人ならすへきやとのこすゑかうちつけ
  なる御ことのはになんあさう思給へなりぬる
  ときこゆれはけにとおほすにすこし
  ほゝゑミ給ぬみやす所いさりいて給け」(49オ・1263@)

  ハひすれはやをらゐな越り給ぬうき世
  中を思給へしつむ月日のつもるけち
  めにやみたり心ちもあやしうほれ/\
  しうてすくし侍をかくたひ/\かさね
  させ給御とふらひのいとかたしけなきに
  思給へおこしてなんとてけになやまし
  けなる御けハひなりおもほしなけくハ
  よのことハりなれと又いとさのミハいかゝよ
0112【よのことハりなれと】−<朱合点> 松風のふけはさすかにわひしはた世のことハりと思ふ物から
  ろつのことさるへきにこそ侍るめれさすかに
  かきりあるよになんとなくさめきこえ」(49ウ・1263E)

  給ふこの宮こそきゝしよりハ心のおく
  見え給へあハれけにいかに人ハらわれなる
  こと越とりそへておほすらんとおもふも
  たゝならねハいたう心とゝめて御あり
  さまもとひきこえ給けりかたちそいと
  まほにハえものし給ましけれといと
  みくるしうかたハらいたき程にたに
  あらすハなとてみるめにより人をも思ひ
0113【みるめにより】−<朱合点> 伊勢の海人の朝な夕なニ
  あき又さるましきに心越もまとハす
  へきそさまあしやたゝ心はせのミこそ」(50オ・1263J)

  いひもてむ(む<朱>)かんにハやんことなかるへけれと
  おもほすいまハ猶むかしにおほしなす
  らへてうとからすもてなさせ給へなと
  わさとけさうひてハあらねとねんころ
  にけしきはミてきこえ給な越しすかた
  いとあさやかにてたけたちもの/\しう
  そゝろかにそみえ給けるかのおとゝハよろつ
0114【そゝろかに】−央<スルト>
0115【おとゝは】−六条院の御事也
  の事なつかしうなまめきあてに
  あひきやうつき給へることのならひなき
  なりこれハおゝしうはなやかにあなきよら」(50ウ・1264A)

  とふとみえ給にほひそ人にゝぬやとうち
  さゝめきておなしうハかやうにていていり
  給ハましかはなと人/\いふめりいうしやう
0116【いうしやうくんかつかに】−衛門唐名ニ金吾将軍といへハ相違なし 時平子 右大将保<ヤス>忠墓ヲミテ紀在昌<マサ>作詩右将軍カ墓草初秋ナリ
  くんかつかに草はしめてあ越しとうち
  くちすさひてそれもいとちかきよのこと
  なれハさま/\にちかうとをう心みたる
  やうなりし世の中にたかきもくた
  れるもおしみあたらしからぬハなきも
0117【あたらし】−[心+△]<アタラシ>
  むへ/\しきかた越はさるものにて
0118【むへ/\しきかた】−芸能ヲ云也
  あやしうなさけをたてたる人にそ」(51オ・1264F)

  ものし給けれはさしもあるましきおほ
  やけ人女房なとのとしふるめきたるとも
  さへこひかなしみきこゆましてうへにハ
  御あそひなとのおりことにもまつおほし
  いてゝなんしのはせ給けるあハれ衛門督
  といふことくさなにことにつけてもいはぬ
  人なし六条院にハましてあハれと
  おほしいつる事月日にそへておほかり
  このわか君越御心ひとつにハかたみと見
  なし給へと人のおもひよらぬ事なれは」(51ウ・1264K)

  いとかひなしあきつかたになれはこの君
  はひゐさりなと(1264L)

イ本
源四十八歳自春至秋以詞哥為巻名」(52オ)

(白紙)」(52ウ)

【奥入01】文集
     五十八自嘲詩
    五十八翁方有後静<シツカニ>思堪<タヘタリ>喜亦堪嗟<ナケク>
    持盃祝願無他語慎<ツヽシテ>勿<ナカレ>[禾+頁]<カタクナニ>愚<ヲロカナルコト>似汝耶<チニ>
 頑<クワン><頭注>
     白楽ハ子なくして老にのそむ人也
     五十八にてはしめて男子むまれたり
     むまるゝ事をそきによりて生遅と
     名つく其子にむかひてつくりける詩也
【奥入02】妹与我呂」(53オ)

かしわき<墨> 一校了<朱>」(表表紙蓋紙)