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「もみちの賀」(題箋)

  朱雀院の行幸ハ神な月(月<朱>)十日あ
0001【朱雀院の行幸】-延喜十六年三月七日行幸朱雀院有法皇五十御賀ニこれになすらふへし 寛平法皇御事也 ニタレニナスラヘシ寛平法皇ノ御事也
  まりなり(△&
り)よのつねならすおもしろ
  かるへきたひの事なりけれハ御かた/\
  ものみたまはぬ事をくちおしかり
  給うへも藤つほの見給ハさらむをあか
0002【藤つほ】-時ニ懐妊七ケ月
  すおほさるれはしかくを御前にてせさ
0003【御前にて】-内裏にてせさせ給ふ也
  せ給ふ源氏中将ハせいかいはそまひ
0004【せいかいは】-盤渉調楽
  たまひけるかたてにハ大とのゝのとふの
0005【とふの中将】-致仕太政大臣
  中将かたちようい人にハことなるを
  たちならひてハなを花のかたハらの」(1オ・237⑤)

  ミやま木なり入かたのひかけさやかに
  さしたるにかくのこゑまさりものゝ
  おもしろきほとにおなしまひのあし
0006【あしふみ】-足踏
  ふミおもゝちよに見えぬさまなりゑい
0007【おもゝち】-面持
0008【ゑい】-<朱>
  なとし給へるハこれやほとけの御かれう
0009【かれうひんか】-迦陵頻迦<朱>
  ひんかのこゑならむときこゆおもしろく
  あはれなるにみかとなミたをのこひ
  給ひかむたちめみこたちもミななき
  たまひぬゑいはてゝそてうちなをし
  たまへるにまちとりたるかくの」(1ウ・237⑩)

  にきハゝしきにかほのいろあひまさり
  てつねよりもひかるとみえ給春宮の
0010【春宮の女御】-東宮の母女御弘徽殿女御
  女御かくめてたきにつけてもたゝなら
  すおほして神なとそらにめてつへき
  かたちかなうたてゆゝしとの給をわか
  き女房なとハ心うしとみゝとゝめけり
  藤つほハおほけなき心のなからまし
  かはましてめてたく見えましとおほ
  すに夢の心ちなむし給ひける宮ハ
  やかて御とのゐなりけるけふのし」(2オ・237⑭)
0011【けふのしかく】-御門の御詞

  かくハせいかいはに事ミなつきぬな
  かゝ見給ひつるときこえ給へはあいなう
  御いらへきこえにくゝてことに侍つとは
0012【ことに侍つ】-藤ツホ詞<右>
0013【ことに】-殊<左>
  かりきこえたまふかたてもけしうハ
0014【かたても】-又御門
  あらすこそ見えつれまひのさまてつかひ
  なむいゑのこハことなるこの世に名を
0015【いゑのこ】-良家子也
  えたるまひのをのこともゝけにいと
  かしこけれとこゝしうなまめいたる
0016【こゝしう】-古ふるめかしき也
  すちをえなむみせぬこゝろみの日かく
  つくしつれハもみちのかけやさう/\しくと」(2ウ・238⑤)
0017【もみちのかけやさう/\しくと】-賀の日やさうさしからむされとイ本

  思へと見せたてまつらんの心にてよふいせ
  させつるなときこえたまふつとめて
  中将の君いかに御らむしけむよに
0018【中将の君】-源氏
0019【いかに御らむしけむ】-藤ツホへの御文
  しらぬミたりこゝちなからこそ
    ものおもふにたちまふへくもあらぬみの
0020【ものおもふに】-源氏
  そてうちふりし心しりきやあなか
  しことある御返めもあやなりし
0021【御返】-藤ツホ
  御さまかたちにみ給ひ(ひ#
ひ)しのはれすやあ
  りけむ
    から人のそてふることハとをけれと」(3オ・238⑩)
0022【から人の】-藤ツホ 唐楽ハ唐朝ノ伝ナレハカラ人ノ袖フルトイヘリ

  たちゐにつけてあハれとハ見き大かたに
  ハとあるをかきりなふめつらしうかやう
0023【かきりなふ】-源氏
  のかたさへたと/\しからす人のミかとまて
  おもほしやれる御きさきことはの
0024【御きさきことは】-藤ツホハ次年十月ニ后ニ立ケリ 然共后カネニテヲハシマセハ后詞トイヘリ 聖詞童詞翁詞ナト云カ如シ
  かねてもとほゝゑまれてち経のやうに
  ひきひろけて見いたまへり行幸にハ
0025【行幸にハ】-朱雀院行幸ノ事
  みこたちなとよにのこる人なくつかう
  まつり給へり春宮もおはします
  れいのかくの(△&
の)ふねともこきめくりて
  もろこしこまとつくしたるまひとも」(3ウ・239①)
0026【もろこし】-唐 左楽
0027【こま】-高麗 右楽

  くさおほかりかくのこゑつゝミのをとよを
0028【くさ】-<朱>
  ひゝかすひとひの源氏の御ゆふかけゆゝ
  しうおほされてみす経なと所/\に
  せさせ給ふをきく人もことハりとあハ
  れかりきこゆるにとうくうの女御ハ
  あなかちなりとにくミきこえ給ふかい
0029【かいしろ】-垣代<朱>
  しろなと殿上人地下も心ことなりと
  人におもハれたるいうそくのかきりとゝ
  のへさせ給へりさい将ふたり左衛門督右衛門督
  ひたりみきのかくのことをこなふまひの師」(4オ・239⑥)

  ともなと世になへてならぬをとりつゝ
  の/\こもりゐてなむならひけるこた
  かきもみちのかけに四十人のかいしろ
  いひしらすふきたてたるものゝねとも
  にあひたるまつ風まことの(の
<朱>み<墨>)山をろしと
  きこえて吹まよひ色々にちりかふ
  このはの中よりせいかひはのかゝやきいて
  たるさまいとおそろしきまて見ゆかさ
  しのもミちいたうちりすきてかほの
  にほひにけおされたる心ちすれはお」(4ウ・239⑪)

  まへなる菊を折て左大将さしかへ給
0030【左大将】-御不知何人
  日暮かゝるほとにけしきハかりうちしく
  れて空のけしきさへ見しりかほなるに
  さるいミしきすかたに菊の色々うつろひ
  えならぬをかさしてけふハまたなきて
  をつくしたるいりあやのほとそゝろさむ
0031【いりあや】-<朱合点> 郭公二村山を尋ミン入アヤノ声ヤ今日ハマサルト 俊頼 入綾ハ入舞事也
  くこのよの事ともおほえすもの見しる
  ましきしも人なとのこのもといはかくれ山
  のこのはにうつもれたるさへすこしものゝ
  心しるハなミたおとしけり承香殿」(5オ・240②)

  の御はらの四のみこまたわらハにて秋
0032【四のみこ】-桐ツホ御門御子也

0033【秋風楽】-盤渉調
  風楽まひ給へるなむさしつきのみも
  のなりけるこれらにおもしろさの
  つきにけれハこと事にめもうつらす
0034【うつらす】-トヽマラス
  かへりてハことさましにやありけむ
  其夜源氏の中将正三位し給頭中将
0035【其夜源氏の中将正三位し給】-延喜紀云 貞観以来奉賀時有叙位ノ例
  正下のかゝいし給かむたちめハミなさる
0036【正下】-正四位下也
  へきかきりよろこひし給もこの君に
  ひかれ給へるなれは人の目をもおとろかし
  心をもよろこはせ給むかしの世ゆかし」(5ウ・240⑥)

  けなり宮ハそのころまかて給ぬれハれい
0037【宮ハ】-藤ツホ女御
0038【まかて給ぬれは】-三条宮
  のひまもやとうかゝひありき給をこと
  にておほいとのにハさハかれ給ふいとゝかのわか
0039【わか草】-紫上
  草たつねとり給ひてしを二条院に
  は人むかへ給へ(へ$
ふ)なりと人のきこえけれハいと
  こゝろつきなしとおほいたりうち/\の
  ありさまハしり給ハすさもおほさむハ
  ことハりなれと心うつくしくれいの人
  のやうにうらミの給ハゝわれもうらなく
0040【うらミの給ハゝ】-葵上ノ事
  うちかたりてなくさめきこえてんものを」(6オ・240⑫)

  おもハすにのミとりない給心つきなさに
  さもあるましきすさひこともいてくるそかし
  人の御ありさまのかたほにその事のあかぬに(に
<朱>)
  おほゆるきすもなし人よりさきに見たて
  まつりそめてしかはあはれにやむことなく
  おもひきこゆるこゝろをも知給ハぬほとこそ
  あらめつゐにハおほしなをされなむと
0041【おたしく】-葵上ノ心ムケ也
  たしく(く&
く)かる/\しからぬ御心のほともをの
  つからとたのまるゝかたハことなりけり
  おさなき人ハみついたまふ(ふ+
まゝに)いとよき心さま」(6ウ・241③)
0042【おさなき人】-紫上

  かたちにてなに心もなくむつれまとハし
  きこえ給しは(△△&
しは)しとのゝうちの人に
  もたれと(△&
と)しらせしとおほしてなをはな
  れたるたいに御しつらひになくしてわれも
  あけ暮いりおハしてよろつの御事とも
  をゝしへきこえ給いてほんかきてならハせ
  なとしつゝたゝほかなりける御むすめ
  をむかへ給へらむやうにそおほしたるまむ
  所けいしなとをはしめことにわかちて
0043【けいし】-家司
  こゝろもとなからすつかうまつらせ給ふ」(7オ・241⑧)

  これみつよりほかの人ハおほつかなくのミ
  おもひきこえたりかのちゝミやもえし
0044【ちゝみや】-兵部卿宮
  りきこえ給はさりけりひめ君ハなを
0045【ひめ君】-紫上
  とき/\思ひいてきこえ給ときあま君
0046【あま君】-祖母
  をこひきこえ給おりおほかりきミのおハ
  するほとハまきらハし給をよるなとハ
  時/\こそとまりたまへこゝかしこの御い
  とまなくてくるれはいて給をしたひき
  こえ給おりなとあるをいとらうたく
  おもひきこえ給へり二三日うちに」(7ウ・241⑬)

  さふらひおほとのにもおハするおりハいとい
  たく(いたく=
いたうイ、く+く)しなとしたまへは心くるしうてハゝ
  なきこもたらむ心ちしてありきも
  しつ心なくおほえ給そうつハかくなむと
0047【そうつ】-紫上ノをち也
  きゝ給てあやしきものからうれし
0048【あやしきものから】-またいとけなき故也
  となむおもほしけるかの御法事なと
0049【かの御法事】-北山尼上
  し給ふにもいかめしうとふらひきこ
  え給へり藤つほのまかてたまへる三
  条の宮に御あり様もゆかしうてま
  いり給へれハ命婦中納言(言+
ノ)君中務なと」(8オ・242⑤)

  やうの人々たいめしたりけさやかにも
  もてなし給かなとやすからすおもへと
  しつめておほかたの御物かたりきこえ
  給ふほとに兵部卿宮まいり給へりこの
  君おハすときゝ給てたいめし給へり
  いとよしあるさまして色めかしうなよ
0050【色めかしうなよひたまへるを】-兵部卿宮ノアリサマ也
  ひたまへるを女にて見むハおかしかりぬ
  へく人しれす見たてまつり給にもかた/\
  むつましくおほえ給てこまやかに御物
  かたりなときこえ給宮も此御さまのつ」(8ウ・242⑨)

  ねよりもことになつかしううちとけ
  給へるをいとめてたしと見たてまつり
  たまひてむこになとハおほしよらて
  女にて見はやといろめきたる御心にハ
  おもほすくれぬれハみすの内に入給を
  うらやましくむかしハうへの御もてなし
  にいとけちかく人つてならてものをも
  きこえたまひしをこよなううとミ
  給へるもつらうおほゆるそわりなきや
  しは/\もさふらふへけれとことそと」(9オ・242⑭)
0051【ことそと侍らぬ】-無殊事也

  侍らぬほとハをのつからおこたり侍を
  さるへ(へ
<朱>き<墨>)事なとハおほす(す$せ)事も侍らむこそ
  うれしくなとすく/\しうていて給ひぬ
  命婦もたはかりきこえむかたなく
0052【宮】-薄ー
  の御けしきもありしより(り+
ハ)いとゝうき
0053【うきふしに】-懐妊ノ後ハ
  ふしにおほしをきて心とけぬ御け
  しきもはつかしくいとをしけれハなに
  のしるしもなくて過行はかなのちきり
  やとおほしみたるゝ事かたミにつきせ
  す少納言ハおほえすおかしきよをみる」(9ウ・243④)
0054【少納言】-紫上ノ女房

  かなこれもこあまうへのこの御事をおほし
  て御をこないにもいのりきこえ給し
  ほとけの御しるしにやとおほゆおほいとの
0055【おほいとの】-葵上
  いとやむ事なくておハしますこゝかしこ
  あまたかゝつらひたまふをそまことにおと
  なひ給はむほとハむつかしき事もやと
  おほえけるされとかくとりわき給へる
  御おほえの程ハいとたのもしけなりかし
  御ふくハゝかたハ三月こそハとてつこも
  りにハぬかせたてまつり給ふをまた」(10オ・243⑨)
0056【ぬかせたてまつり給ふ】-除服
0057【また】-紫上ハまた<右> 又<左>

  おやもなくておひいて給しかはまはゆ
0058【おやもなくて】-父兵部卿宮にしられぬ程ハまたをやもなくてといへり
  き色にハあらてくれなゐむらさき
  山ふきのちのかきりをれる御こうちき
  なとをきたまへるさまいミしういまめか
  しくおかしけなりおとこ君ハてうはいに
0059【おとこ君ハてうはいに】-改年源氏十八歳紫上十一歳 末摘花ノ巻改年ト同也
  まいり給とてさしのそき給へりけふより
  ハおとなしくなり給へりやとてうちゑミ
  給へるいとめてたうあひ行つき給へり
  いつしかひゐなをしすゑてそゝきゐ
0060【そゝきゐ】-楚々起也 そゝめく也
  たまへる三尺のみつしひとよろひにしな/\」(10ウ・243⑭)

  しつらひすへて又ちひさきやともつくり
  あつめてたてまつり給へるを所せきまて
  あそひひろけたまへりなやらふとて
0061【なやらふ】-追儺 十二月晦
  いぬきかこれをこほち侍にけれハつく
0062【いぬき】-犬公
  ろひ侍そとていと大事とおほいたり
  けにいと心なき人のしわさにも侍
0063【いと心なき人の】-源氏
  なるかないまつくろハせ侍らむけふハ(ハ
こと<朱>)いミ
0064【けふは】-正月一日
  してなゝひたまひそとていて給けし
  き所せきを人々ハしにいてゝ見たて
  まつれハひめ君もたちいてゝ見たてま」(11オ・244⑤)

  つり給てひゝなの中の源しの君
  くろひたてゝうちにまいらせなとし給
  ことしたにすこしおとなひさせ給へ
0065【ことしたに】-少納詞
  とおにあまりぬる人ハひゝなあそひハ
  いミ侍ものをかく御おとこなとまうけ
  たてまつり給てハあるへかしうしめやかに
  てこそ見えたてまつらせ給ハめ御くし
  まいるほとをたにものうくせさせ給なと
  少納言きこゆ御あそひにのミ心いれ
  給へれハはつかしとおもハせたてまつらむ」(11ウ・244⑩)

  とていへは心のうちに我ハさはおとこまう
0066【心のうちに】-紫上
  けてけりこの人々のおとことてあるハ
  見にくゝこそあれわれハかくおかしけに
  わかき人をもゝたりけるかなと今そおも
  ほししりけるさハいへと御としの数そふ
  しるしなめりかしかくおさなき御け
  はひのことにふれてしるけれはとのゝ
  うちの人々もあやしと思ひけれといと
  かうよつかぬ御そひふしならむとハ
0067【よつかぬ御そひふし】-夫婦ノ道ナキ也
  おもハさりけりうちより大殿にまかて」(12オ・245①)

  たまへれはれひのうるハしうよそほし
0068【れひの】-葵上
  き御さまにて心うつくしき御けしきも
  なくくるしけれハことしよりたにす
0069【ことしより】-源氏
  こしよつきてあらため給御心見えハいか
  にうれしからむなときこえたまへと
  わさと人すゑてかしつき給ときき
0070【わさと人すゑてかしつき給と】-葵上
  給しよりハやむ事(事
なくおほしさためたる事にこそハとこゝろ<朱>)のミをかれて
  とゝうとくはつかしくおほさるへし
  しひて見しらぬやうにもてなして
0071【しひて見しらぬやうに】-源氏
  みたれたる御けハひにハえしも心つよからす」(12ウ・245⑥)
0072【えしも】-葵上

  御いらへなとうちきこえ給へるハなを人より
  ハいとことなりよとせはかりかこのかみに
0073【よとせはかり】-葵上廿二歳
  おハすれはうちすくしはつかしけに
  さかりにとゝのほりて見え給なに事かハ
0074【なに事かハ】-源氏
  この人のあかぬ所ハものし給わか心の
  あまりけしからぬすさひにかくうらミ
  られたてまつるそかしとおほししらる
  なし大臣ときこゆるなかにもおほえや
  む事なくおハするか宮はらにひとり
  いつきかしつき給御心をこりいとこ」(13オ・245⑪)

  よなくてすこしもをろかなるをは
  さましとおもひきこえ給へるをおとこ君
  ハなとかいとさしもとならはい給御心の
0075【なとかいとさしも】-男ノならひニなんてうしと思ふ也
  へたてともなるへしおとゝもかくたのもし
  けなき御心をつらしとおもひきこえ
  給なから見たてまつり給時ハうらみも
  わすれてかしつきいとなミきこえ給ふ
  つとめていて給ふ所にさしのそき給て
  御さうそくし給けになたかき御をひ
0076【御をひ】-石帯也
  御てつからもたせてわたり給て御そ」(13ウ・246②)
0077【御手つから】-落花形鴛通天

  のうしろひきつくろひなと御くつをとらぬ
  はかりにし給いとあハれなりこれハない
0078【ないえむなと】-内宴正月廿一日於仁寿殿
  えむなといふこ事も侍なるをさやうの
  おりにこそなときこえ給へハそれはまさ
  れるも侍りこれハたゝめなれぬさまな
  れはなむとてしひてさゝせたてまつり
0079【さゝせ】-指
  給けによろつにかしつきたてゝ見たて
  まつり給ふにいけるかひありたまさかに
  てもかゝらん人をいたしいれて見んに
  ますことあらしとみえ給さむさしに」(14オ・246⑦)
0080【さむさしに】-参座也 参賀事也

  とてもあまた所もありき給ハす内春宮
  一院ハかりさてハ藤つほの三(三&
三)条の宮にそ
0081【一院】-准寛平法皇歟 桐ツホ帝傍親歟 又陽成院
  まいり給へるけふハまたことにも見えた
  まふかなねひ給まゝにゆゝしきまて
  なりまさり給ふ御有さまかなと人々めて
  きこゆるを宮き丁のひまよりほのミ
0082【宮】-藤ツホ
  給ふにつけてもおもほす事しけかり
  けりこの御事のしハすもすきにしか
0083【この御事】-御産ノ事ヲ云 去年三月藤ツホ里居通源氏事不知之 三月ヨリ計テ十二月ヲウミカ月ト思ヘリ 誠ハ四月始孕之
  もとなきにこの月ハさりともと宮人も
0084【この月は】-正月中
  まちきこえ内にもさる御心まうけとも」(14ウ・246⑫)

  ありつれなくてたちぬ・御ものゝけにやと
  よ人もきこえさハくを宮いとわひしう
  この事によりミのいたつらになりぬ
0085【ミのいたつらに】-<朱合点> 後ー あハれともいふへき人ハおもほへて身のいたつらになりぬへきかな 伊勢
  へき事とおほしなけくに御心ちもいと
  くるしくてなやミ給中将の君ハいとゝ
0086【中将の君】-源氏時三位
  おもひあハせてみすほうなとさとハ
  なくて所/\にせさせたまふ世の中の
  さためなきにつけてもかくはかなく
  てややみなむととりあつめてなけき
  給ふに二月十よ日のほとにおとこみこ」(15オ・247③)
0087【二月】-きさらき
0088【おとこみこむまれ給ひぬれハ】-冷泉院誕生事

  むまれ給ひぬれハなこりなくうちにも
  宮人もよろこひきこえ給いのちな
0089【宮人も】-藤ツホ方
0090【いのちなかくもと】-藤ツホ御こゝろ
  かくもとおもほすハ心うけれとこうき
  てんなとのうけハしけにのたまふときゝ
0091【うけハしけに】-呪詛
  しをむなしくきゝなし給ハまし(し+
△、△#)ハ
  ハらハれにやとおほしつよりてなむやう/\
  すこしつゝさはやい給けるうへのいつ
0092【うへの】-御門
  しかとゆかしけにおほしめしたる
  かきりなしかの人しれぬ御心にもいみ
0093【かの人しれぬ御心】-源氏君
  しう心もとなくて人まにまいり給て」(15ウ・247⑦)

  うへのおほつかなかりきこえさせ給をまつ
  見たてまつりて(て+
くハしく)そうし侍らむときこえ
  給へとむつかしけなるほとなれはとて
  みせたてまつり給はぬもことハりなり
  るハいとあさましうめつらかなるまてうつ
0094【うつしとり給へるさま】-源氏ニ似タリ
  しとり給へるさまたかふへくもあらす
  の御心のおにゝいとくるしく人のみたて
0095【御心のおにゝ】-<朱合点> 心ノおそろしさ也<右> 我ためにうときけしきのつくからにかつハ心のをにも見えけり 謙徳公<左>
  まつるもあやしかりつるほとのあやまり
  をまさに人のおもひとかめしやさらぬは
  かなき事をたにきすをもとむる世に」(16オ・247⑬)

  いかなる名のつゐにもりいつへきにかと
  おほしつゝくるに身のみそいと心うき
  命婦の君にたまさかにあひ給ていみ
  しき事ともをつくし給へとなにの
  かひあるへきにもあらすわか宮の御事
0096【わか宮】-冷泉院
  をわりなくおほつかなかりきこえ給へハなと
0097【なとかうしも】-王命婦
  かうしもあなかちにのたまハすらむ
  をのつからみたてまつらせ給ひてむと
  こえなからおもへるけしきかたみに
  たゝならすかたハらいたき事なれは」(16ウ・248③)

  まほにもえのたまハていかならむよに
  つてならてきこえさせむとてない給
  さまそ心くるしき
    いかさまにむかしむすへるちきりにて
0098【いかさまに】-源氏
  このよにかゝる中のへたてそかゝる事こそ
0099【このよに】-子ニよせり
  こゝろへかたけれとの給命婦も宮の
  おもほしたるさまなとをみたてまつるに
  えはしたなふもさしはなちきこえす
    みてもおもふ見ぬはたいかになけくらむ
0100【みてもおもふ】-命婦 六帖 ミテモおもふミステモおもふ大かたハ我身一や物おもひの山
  こやよの人のまとふてふやミあはれに心」(17オ・248⑩)
0101【こやよの人の】-子にそへたり

  ゆるひなき御事ともかなとしのひて
0102【ゆるひ】-緩
  きこえけりかくのミいひやるかたな
0103【かくのミ】-源氏
  くてかへり給ものから人のものいひ
  もハつらハしきをわりなき事にのた
  まハせおほして命婦をもむかしおほひ
  たりしやうにもうちとけむつひ給
  ハす人めたつましくなたらかにもて
0104【人め】-藤壺
  なし給ものから心つきなしとおほす
  ときも有へきをいとハひしく思ひの
0105【いとハひしく】-源氏
  ほかになる心ちすへし四月にうちへ」(17ウ・248⑭)
0106【四月】-う月
0107【うちへ】-若宮

  まいり給ふほとよりハおほきにおよすけ
  給てやう/\おきかへりなとし給あさ
  ましきまてまきれところなき御かほ
  つきをおほしよらぬ事にしあれハまた
0108【おほしよらぬ】-御門
  ならひなきとちハけにかよひ給へるに
  こそハとおもほしけりいみしうおもほし
  かしつく事かきりなし源しの君を
  かきりなきものにおほしめしなから
  よの人のゆるしきこゆましかりしに
  よりてはうにもえすゑたてまつらすなり」(18オ・249⑤)
0109【はう】-坊

  にしをあかすくちおしうたゝ人にてか
  たしけなき御ありさまかたちにねひ
  もておはするを御らむするまゝに心く
  るしくおほしめすをかうやむ事な
  き御はらにおなしひかりにてさし
  いて給へれハきすなきたまとおほしかし
  つくに宮ハいかなるにつけてもむねの
0110【宮】-藤ツ
  ひまなくやすからすものをおもほす
  れいの中将の君こなたにて御あそひ
0111【中将の君】-源シ
  なとし給にいたきいてたてまつらせ」(18ウ・249⑨)

  給てみこたちあまたあれとそこをのミ
0112【みこたち】-御門ノ御詞也
0113【そこ】-源氏
  なむかゝる程よりあけ暮見しされは
  おもひわたさるゝにやあらむいとよく
  こそおほえたれいとちいさきほとハみなかく
  のミあるわさにやあらむとていみしく
  うつくしと思ひきこえさせ給へり中将の
  君おもての色かハる心ちしておそろしう
  もかたしけなくもうれしくもあハれにも
  かた/\うつろふ心ちしてなミたおちぬへし
  物かたりなとしてうちゑミ給へるかいと」(19オ・250①)
0114【物かたりなとして】-若宮<左>

  ゆゝしううつくしきに我身なからこれに
  にたらむハいみしういたハしうおほえ給そ
  あなかちなるや宮ハわりなくかたはら
  いたきにあせもなかれてそおハしける
  中将ハ中/\なる心ちのみたるやうな
  れハまかて給ぬわか御かたにふし給て
  むねのやる方なきほとすくして大いとの
  へとおほすおまえのせむさいのなにと
  なくあをミわたれる中にとこ夏の
  花やかにさきいてたるをおらせ給て」(19ウ・250⑥)

  命婦の君のもとにかき給事おほかるへし
    よそへつゝ見るに心ハなくさまて
0115【よそへつゝ】-源氏 新古今 よそへツヽミれト露たになくさますいかにかすへきとこ夏ノ花
  露けさまさるなてしこの花はなに
0116【はなにさかなん】-<朱合点> 後ー我やとにまきしなてしこいつしかも花にさかなんよそへてもミん
  さかなんとおもひたまへしもかひなきよに
  侍りけれはとありさか(か
<朱>)ぬへきひまにや
  ありけむ御らむせさせてたゝちりは
  かりこの花ひらにときこゆるをわか御
  心にもものいとあはれにおほししらるゝ
  ほとにて
    袖ぬるゝ露のゆかりとおもふにも」(20オ・250⑪)
0117【袖ぬるゝ】-藤ツホ 返し

  猶うとまれぬやまとなてしことはかり
0118【うとまれぬ】-をかぬノ心也
  ほのかにかきさしたるやうなるをよろこひ
  なからたてまつれるれいの事なれは
  しるしあらしかしとくつをれてなかめ
  ふし給へるにむねうちさハきていミ
  しくうれしきにもなみたおちぬ
  つく/\とふしたるにもやるかたなき
  心ちすれはれいのなくさめにハにしの
0119【にしのたいに】-紫上
  たいにそわたり給ふしとけなくうち
  ふくたミ給へるひむくきあされたる」(20ウ・251③)

  うちきすかたにてふえをなつかしうふき
0120【うちきすかたにて】-掛衣スカタ也
  すさひつゝのそきたまへれは女君あり
  つる花の露にぬれたる心ちしてそひ
0121【花の露】-撫子ナリ
  ふし給へるさまうつくしうらうたけなり
  あい行こほるゝやうにておハしなからとく
  もわたり給はぬなまうらめしかりけれハ
  れいならすそむき給へるなるへしはし
0122【はしのかたに】-源氏
  のかたについゐてこちやとの給へとおと
  ろかすいりぬるいそのとくちすさみて
0123【いりぬるいその】-<朱合点> 拾 しほミてハ入ぬるいその草なれやミらくすくなくこふらくのおほき
  口をゝいしたまへるさまいみしうされて」(21オ・251⑦)

  うつくしあなにくかゝる事くちなれ給に
0124【あなにく】-源氏
  けりなみるめにあくハまさなき事そよ
0125【みるめにあくは】-<朱合点> 古今 いせノあまのあさなゆふなにかつくてふみるめに人ヲあくよしもかな
  とて人めして御こととりよせてひかせた
  てまつり給さうのことハなかのほそをのた
0126【さうのこと】-箏秦声世謂蒙恬<テン>為之
0127【なかのほそを】-九十斗為を中細絃ト云歟
  へかたきこそ所せけれとてひやうてふに
0128【ひやうてふに】-平調ハ柱をさけて立也
  をしくたしてしらへ給かきあハせはかり
0129【かきあはせ】-撥心
  ひきてさしやり給へれはえゑしはて
0130【ゑし】-怨
  すいとうつくしうひき給ふちひさき御
  ほとにさしやりてゆし給御てつきいと
0131【ゆし】-由
  うつくしけれハらうたしとおほしてふえ」(21ウ・251⑫)

  ふきならしつゝおしへ給いとさとくてかた
  きてうしともをたゝひとわたりにならひ
  とり給大かたらう/\しうおかしき御
  心はへを思し事かなふとおほすほそ
0132【ほそろくせり】-
<朱合点> 保曽呂具世利長保楽破也
  ろくせり
いふものハなはにくけれとおも
  しろふふきすさひ給へるにかきあはせ
  またわかけれとハうしたかハす上手
0133【ハうし】-拍子
  めきたりおほとなふらまいりてゑとも
  なと御らむするにいて給へしとありつ
  れハ人々こハつくりきこえてあめふり」(22オ・252③)

  侍ぬへしなといふにひめ君れいの心
  ほそくてくし給へりゑも見さしてうつ
0134【くし給へり】-苦
  ふしておハすれハいとらうたくて御くしの
  いとめてたくこほれかゝりたるをかき
  なてゝほかなるほとハ恋しくやあるとの
  たまへはうなつき給われもひとひも見
0135【ひとひも見たてまつらぬハ】-詩云一日不見如三月云々
  たてまつらぬハいとくるしうこそ△(△#
△、△#)れと
  おさなくおハするほとハ心やすくおもひ
  きこえてまつくね/\しくうらむる人
0136【うらむる人】-葵上
  の心やふらしと思てむつハ(ハ=
<墨><朱>)しけれは」(22ウ・252⑧)

  しはしかくもありくそおとなしくみなし
  てハほかへもさらにいくまし人のうらミ
  おハしなとおもふもよになかふありて
  おもふさまにみえたてまつらんと思ふそなと
  こま/\とかたらひきこえ給へはさす
  かにはつかしうてともかくもいらへき
  こえ給ハすやかて御ひさによりかゝりて
  ねいり給ぬれはいと心くるしうてこよひ
  ハいてすなりぬとの給へはみなたちて
  おものなとこなたにまいらせたりひめ」(23オ・252⑬)

  君おこしたてまつり給ひていてすな
  りぬときこえ給へはなくさみておき給
  へりもろともにものなとまいるいとはかな
  けにすさひてさらはね給ねかしとあや
  うけに思給つれはかゝるをみすてゝハ
  みしきみちなりともおもむきかたくお
  ほえ給かやうにとゝめられ給おり/\なと
  もおほかるをゝのつからもりきく人おほ
  いとのにきこえけれはたれならむいとめ
  さましき事にもあるかな今まてその」(23ウ・253④)

  人ともきこえすさやうにまつハしたハふ
  れなとすらんハあてやかに心にくき人
0137【あてやかに】-少
  にハあらし内わたりなとにてハかなく
  見給けむひとをものめかし給て人や
  とかめむとかくし給なゝり心なけに
  いわけてきこゆるハなとさふらふ人々
0138【いわけて】-幼
  もきこえあへりうちにもかゝる人ありと(りて&
りと)
  きこしめしていとおしくおとゝの思ひ
  なけかるなるなとのたまハすれとかしこ
0139【かしこまりたるさま】-源氏
  まりたるさまにて御いらへもきこえ給ハ」(24オ・253⑨)

  ねは心ゆかぬなめりといとおしくおほし
0140【心ゆかぬなめり】-御門
  めすさるハすき/\しううちみたれて
  この見ゆる女はうにまれ又こなたかなた
0141【女はう】-内ノ女房也
  のひと/\なとなへてならすなともみえき
0142【なへてならす】-タヽナラヌ風情
  こえさめるをいかなるものゝくまにかくれ
  ありきてかく人にもうらみらるらむと
  のたまはすみかとの御としねひさせ給
  ぬれとかうやうのかたえすくさせ給ハ
  すうねへ女くら人なとをもかたち心ある
0143【うねへ】-采女
  をはことにもてはやしおほしめし」(24ウ・253⑭)

  たれはよしあるミやつかへ人おほかる比なり
  はかなき事をもいゝふれ給ふにハもて
0144【はかなき事】-源氏
  ハなるゝ事も有かたきにめなるゝにや
  あらむけにそあやしうすい給ハさめると
  心ミにたハふれ事をきこえかゝりなと
  するおりあれとなさけなからぬほとに
  うちハ(ハ
<朱>)らへてまことにハミたれ給ハぬを
  まめやかにさう/\しと思きこゆる人
  もありとしいたう老たる内侍のすけ
0145【内侍のすけ】-源内侍事
  人もやむことなく心はせありあてに」(25オ・254⑤)

  おほえたかくハありなからいみしうあため
  いたる心さまにてそなたにハをもからぬある
  をかうさたすくるまてなとさしもミたるら
0146【さた】-央也 人寿百歳にとりて五十余を半過ルト云 源内侍五十七八ト下ニアリ
  むといふかしくおほえ給けれハたハふれ事
  いひふれて心みたまふににけなくも
0147【にけなく】-似
  思ハさりけるあさましとおほしなから
  さすかにかゝるもおかしふて物なとの給て
  けれと人のもりきかむもふるめかしき
  ほとなれはつれなくもてなし給へるを
  女ハいとつらしとおもへりうへの御けつり」(25ウ・254⑩)
0148【女は】-源内侍
0149【御けつり】-梳櫛

  くしにさふらひけるをはてにけれはうへハ
  みうちきのひとめしていてさせ給ぬる
0150【みうちきのひとめして】-中院事書云 御本鳥とる人也 御梳櫛の人ハわらハくひの無文ノ直衣ヲ給リテ着する也 御うちきの人と云也 一説云御装束奉仕スル人也
  ほとに又人もなくてこの内侍つねよりも
  きよけにやうたいかしらつきなまめきて
  さうそくありさまいと花やかにこのまし
  けにみゆるをさもふりかたうもと心つき
0151【ふりかたう】-難旧
  なく見たまふ物からいかゝおもふらんと
  さすかにすくしかたくてものすそをひ
  きおとろかし給へれはかはほりのえなら
  すゑかきたるをさしかくして見かへりたる」(26オ・255①)

  まみいたうみのへたれとまかはらいたくくろ
0152【まかはら】-眼皮也
  ミおちいりていみしうはつれそゝけたり
0153【はつれそゝけたり】-髪ノハツレ也
  につかハしからぬあふきのさまかなと見給て
  わかもたせ(せ
<朱>)まへるにさしかへて見給へは
  あかきかミのうつるハかり色ふかきにこた
  かきもりのかたえ(え
<朱>)ぬりかへ(へ<朱>)したりかたつ
0154【ぬりかくし】-塗土色也
  かたにてハいとさたすきたれとよしなから
0155【さたすき】-老筆也
  すもりの下草おひぬれはなとかき
0156【もりの下草】-<朱合点> 能宣集 扇ニ夏クレハコリスマニヲフル大アラキノ杜ノ下草かひもあらなくに<右> 古今<墨> おほあらきのもりの下草老ぬれハこまもすさめすかる人もなし<朱>
  すさひたるをことしもあれうたての心
  はへやとゑまれなからもりこそなつのと」(26ウ・255⑥)
0157【もりこそなつの】-<朱合点> 六帖 ひまもなくしけりにけりなおほあらきのもり社夏のかけハしるけれ<朱>

  みゆめるとてなにくれとの給ふもにけなく
  人や見つけんとくるしきを女ハさも
  おもひたらす
    きみしこはたなれのこまにかりかはむ
0158【きみしこは】-源内侍
0159【たなれのこま】-古今 我門ノ一村薄かりかハん君かてなれの駒もこぬかな 小町<左>
  さかりすきたる下葉なりともといふさま
  こよなく色めきたり
    さゝわけハ人やとかめむいつとなく
0160【さゝわけハ】-源氏<右> 蜻蛉日記 サヽワケハあれこそまさめ草かれの駒なつくへき杜ノ下草<左>
  こまなつくめるもりのこかくれわつらハしさに
  とてたち給ふをひかへてまたかゝるものを
0161【ひかへて】-内侍ノスケ源氏ノ袖ヲヒカヘテ
0162【またかゝるものを】-<朱合点> 万四 しろかミにくろかミましりをふるまてまたいとかゝるものハ思ハす 坂上郎女
  こそ思侍らね今さらなるみのはちになむ」(27オ・255⑫)

  とてなくさまいといミし今きこえむ思ひ
  なからそやとてひきはなちていて給を
  せめてをよひてはしハしらとうらミかくる
0163【はしはしら】-<朱合点> 古今<墨> 津の国のなからの橋のハし柱古ぬる身社かなしかりけれ<朱>
  をうへハみうちきはてゝみさうしよりのそ
0164【うへハ】-御門
  かせ給けりにつかハしからぬあハひかなと
  いとおかしうおほされてすき心なしと
0165【すき心】-数寄
  つねにもてなやむめるをさハいへとすく
  さゝりけるハとてわらハせ給へはないしハ
  なまゝはゆけれとにくからぬ人ゆへは
0166【にくからぬ人ゆへ】-<朱合点> 六帖<墨> にくからぬ人のきせたるぬれきぬハおもひにあへす今かハきなん<朱>
  ぬれきぬをたにきまほしかるたくひも」(27ウ・256③)

  あなれハにやいたうもあらかひきこえさせす
  人々もおもひのほかなる事かなとあつかふ
  めるを頭中将きゝつけていたらぬくまな
0167【いたらぬくまなき心】-我恋也
  き心にてまたおもひよらさりけるよと
  思ふにつきせぬこのミ心も見まほしう
  なりにけれハかたらひつきにけりこの君
0168【この君】-頭中将ヲ云
  も人よりハいとことなるをかのつれなき
0169【かのつれなき人】-源氏をいふ
  人の御なくさめにとおもひつれと見まほし
0170【見まほし】-源氏ヲ
  きハかきりありけるをとやうたてのこの
  みやいたうしのふれは源しの君ハえし」(28オ・256⑧)

  り給ハす見つけきこえてハまつうらミき
0171【見つけきこえてハ】-源中将
  こゆるをよはひのほといとおしけれハなく
0172【よはひ】-源氏ノ心
  さめむとおほせとかなハぬ物うさにいとひさし
  くなりにけるをゆふたちしてなこりすゝし
  きよひのまきれに温明殿のわたりを
0173【温明殿】-内侍所也
  たゝすみありき給へはこのないしひはを
  いとおかしうひきゐたり御前なとにても
  おとこかたの御あそひにましりなとして
  ことにまさる人なき上手なれはもの
  うらめしうおほえけるおりからいとあハれに」(28ウ・256⑬)

  きこゆうりつくりになりやしなまし
0174【うりつくりになりやしなまし】-<朱合点> 山しろのこまのわたりのうりつくりとなりてなりなる心かな<右朱> 催馬楽 山しろノこまのわたりのうりつくりになりやしなましうりたつまてに<左墨>
  こゑハいとおかしうてうたふそすこし心
  つきなきかくしうにありけむかしの
0175【かくしうにありけむ】-<朱合点> 白氏文集 夜聞歌者宿鄂州云 文君といひけん昔ノ人もト有本ヲ可用之候御意也習侍り 山城哥をうたひたるを楽天ノ鄂州ノ哥ヲ聞シニ思よそへたる也
  人もかくやおかしかりけむとみゝとま
  りてきゝ給ふひきやみていといたう
  思ひみたれたるけハひなりきみあつま
0176【あつまやを】-
<朱合点> あつまやのまやのあまりのあまそゝきわれたちぬれぬとの戸ひらかせ<右朱> かすかひもとさしもあらハこそこのとわれさゝめをしひらいてきませわれや人ツマ 催馬楽 東屋律二段<左墨>
  
しのひやかにうたひてより給へるに
  をしひらいてきませとうちそへたるも
0177【をしひらいて】-<朱合点>
  れいにたかひたる心ちそする
    たちぬるゝ人しもあらしあつまやに」(29オ・257④)
0178【たちぬるゝ】-内侍

  うたてもかゝるあまそゝきかなとうちなけく
  をわれひとりしもきゝおふましけれと
  うとましやなに事をかくまてハとおほゆ
    人つまハあなわつらハしあつまやの
0179【人つまハ】-源氏
  まやのあまりもなれしとそおもふとてう
  ちすきなまほしけれとあまりはし
  たなくやと思ひかへして人にしたかへは
  すこしはやりかなるたハふれことなといひ
  かハして是もめつらしき心ちそし給
  頭中将ハ此君のいたうまめたちすくして」(29ウ・257⑩)

  つねにもとき給かねたきをつれなくてう
  ち/\しのひ給かた/\おほかめるをいかて
  見あらハさむとのミ思ひわたるにこれを
  みつけたる心ちいとうれしかゝるおりに
  すこしをとしきこえて御心まとハして
  こりぬやといはむとおもひてたゆめきこ
0180【たゆめきこゆ】-頭中将見つけなから猶たゆめて源氏のね入給をまちける也
  ゆ風ひやゝかにうちふきてやゝふけ行
  ほとにすこしまとろむにやと見ゆる
  けしきなれはやをらいりくるに君ハ
  とけてしもね給ハぬ心なれはふときゝつ」(30オ・258①)
0181【とけてしもね給はぬ心】-藤つほの御事を思ふ比也

  けて此中将とハ思よらすなをわす
  れかたくすなるすりのかみにこそあらめと
0182【すりのかみ】-修理大夫内侍ニかよふ人也
  おほすにおとな/\しき人にかくにけなき
  ふるまひをして見つけられん事ハは
  つかしけれはあなわつらはしいてなむよ
  (+
く)ものふるまいはしるかりつらむものを
0183【くものふるまい】-<朱合点> 我せこかくへきよひなりさゝかにのくものふるまひかねてしるしも<朱>
  心うくすかし給けるよとてなをしハかり
  をとりて屏風のうしろにいり給ひぬ
  中将おかしきをねむしてひきたて
  まつる屏風のもとによりてこほ/\と」(30ウ・258⑥)

  たゝみよせておとろ/\しくさハかすに
  内侍はねひたれといたくよしはミなよひ
0184【ねひたれと】-年よりたる也
  たる人のさき/\もかやうにて心うこかす
  おり/\ありけれハならひていミしく心
  あハたゝしきにも此君をいかにしきこ
  えぬるかとわひしさにふるふ/\つとひ
0185【つとひかへたり】-頭中将を
  かへたりたれとしられていてなはやとお
0186【たれとしられて】-源氏
  ほせとしとけなきすかたにてかうふり
  なとうちゆかめてはしらむうしろて
  おもふにいとおこなるへしとおほしやす」(31オ・258⑪)
0187【おこ】-嗚呼

  らふ中将いかて我としられきこえしと
  おもひて物もいはすたゝいみしういか
  れるけしきにもてなしてたちをひき
  ぬけハ女あかきミ/\とむかひて手を
  するにほと/\わらひぬへしこの
  ましうわかやきてもてなしたる
  うハへこそさりもありけれ五十七八の人
  のうちとけてものいひ(いひ=
思ひイ<朱>)さハけるけは
  ひえならぬ二十のわか人たちの御
0188【二十のわか人たち】-源氏ハ此時十八也 致仕大臣二十余也
  中にてものをちしたるいと月なし」(31ウ・259②)

  かふあらぬさまにもてひかめておそろし
  けなるけしきをみすれと中/\しるく
  見つけ給て我としりてことさらに
  するなりけりとおこになりぬその人
0189【その人】-頭中将と見なす也
  なめりと見給にいとおかしけれは
  たちぬきたるかひなをとらへていといたう
  つミ給へれはねたきものからえたへて
  わらひぬまことはうつく(く
<朱>)し心かとよ
0190【うつし心】-万十一 ますらをのうつし心も我ハなし夜昼いはす恋しわたれは 現心うつし心をハ誠の心かといふ
  たハふれにくしやいてこのなおしきむと
0191【たハふれにくしや】-ありぬやと心ミカテラあひミねハたハふれにくきまてそ恋シキ
  の給へとつととらへてさらにゆるし」(32オ・259⑥)

  きこえすさらはもろともにこそとて
  中将のおひをひきときてぬかせ給
  へはぬかしとすまふをとかくひきしろふ
  ほとにほころひハほろ/\とたえぬ中将
    つゝむめるなやもりいてんひきかハし
  かくほころふるなかのころもにうへにとり
0192【うへにとりきハ】-<朱合点> 紅のこそめのころもしたにきてうへにとりきはしるからんも<朱>
  きハしるからんといふ君
    かくれなき物としる/\なつころも
0193【かくれなき】-源氏返し 頭中将をその人とハかくれなきにかくきたりておとすハあさき心とよめる也
  きたるをうすき心とそみるといひかハ
  してうらやミなきしとけなすかたに」(32ウ・259⑫)

  ひきなされて見ないて給ひぬ君ハいとく
  ちおしく見つけられぬる事と思ひ
  ふし給へり内侍ハあさましくおほえ
  けれはおちとまれる御さしぬきおひ
  なとつとめてたてまつれり
    うらみてもいふかひそなき立かさね
0194【うらみても】-内侍
  ひきてかへりしなみのなこりに
  そこもあらハにとありおもなのさまや
0195【そこもあらハに】-<朱合点> 六 わかれての後そかなしきなみた川そこもあらハになりぬとおもへは<朱>
0196【おもな】-無面
  と見たまふもにくけれとわりなしと
  おもへりしもさすかにて」(33オ・260③)

    あらたちし浪に心ハさはかねと
0197【あらたちし】-源氏
  よせけむいそをいかゝうらみぬとのミな
0198【よせけむいそ】-頭中将をいふ
  むありけるおひハ中将のなりけり
  わか御なをしよりハ色ふかしと見給に
0199【色ふかし】-師説きくへし直衣ノキレヲ帯ニスル也
  はた袖もなかりけりあやしの事
  ともやおりたちてみたるゝ人ハむへ
  おこかましき事ハおほからむといと(と+
と)
  御心おさめられ給ふ中将とのゐ
  所よりこれまつとちつけさせ給へ
  とてをしつゝみてをこせたるをいかて」(33ウ・260⑧)

  とりつらむと心やましこのおひを
  えさらましかはとおほすその色のかミ
0200【その色のかミ】-花田紙
  につゝみて
    なかたえはかことやおふとあやふさに
0201【なかたえは】-源氏
0202【かことやおふ】-カコツ事也
  はなたのおひをとりてたにみすとて
0203【はなたのおひ】-石川哥 花田の帯の中ハたえたる 二藍同色ナリ
  やり給たちかへり
    君にかくひきとられぬるおひなれは
0204【君にかく】-中将
  かくてたえぬるなかとかこたむえのかれ
  させ給ハしとありひたけてをの/\殿上
  にまいり給へりいとしつかにものとをき」(34オ・260⑭)

  さましておはするに頭のきミもいとおかし
  けれとおほやけ事おほくそうしくた
  すひにていとうるハしくすくよかなるを
  みるもかたみにおほ(おほ$
<墨>ほゝイ<朱>、<墨>)えまる人まに
  さしよりてものかくしハこりぬらむか
0205【ものかくしハ】-頭中将詞
  しとていとねたけなるしりめなり
  なとてかさしもあらむたちなからか
0206【なとてかさしも】-源氏君返事
  へりけむ人こそいとおしけれまことハ
  うしや世中よといひあはせてとこの
0207【うしや世中】-<朱合点>
0208【とこのやまなる】-<朱合点> いぬかみのとこの山なるいさや川いさとこたへてわか名もらすな<朱>
  やまなるとかたみにくちかたむ(む
<朱>)て」(34ウ・261④)

  そのゝちともすれハことのついてことに
  いひむかふるくさハひなるをいとゝもの
0209【いとゝものむつかしき】-源氏
  むつかしき人ゆへとおほししるへし
  女はなをいとえむにうらみかくるを
0210【女は】-源内侍
  ひしと思ありき給中将ハいもうとの
  君にもきこえいてすたゝさるへきおり
0211【いもうとの君にも】-葵上
  のをとしくさにせむとそ思ひけるやむ
0212【をとしくさ】-下種也
  ことなき御はら/\のみこたちたに
  うへの御もてなしのこよなきにわつら
  ハしかりていとことにさりきこえ給へる」(35オ・261⑨)
0213【さりきこえ】-所をさる也

  をこの中将ハさらにをしけたれきこ
  えしとはかなき事につけてもおもひ
  いとみきこえ給ふこの君ひとりそひめ
  君の御ひとつはらなりけるみかとの御
  こといふはかりこそあれ我もおなし大臣
  ときこゆれと御おほえことなるかみこ
  はらにてまたなくかしつかれたるハ
  なにはかりおとるへききハとおほえたま
  はぬなるへし人からもあるへきかきりと
  とのひてなに事もあらまほしくたら」(35ウ・261⑭)

  いてそものし給けるこの御中とものいと
  みこそあやしかりしかされ(れ
<朱>)うるさくて
0214【されとうるさくてなむ】-作者の詞也
  なむ七月にそきさきゐ給めりし
0215【きさきゐ給めりし】-藤つほ立后
  源しの君宰相になり給ぬみかとお
  りゐさせ給はむの御心つかひちかふなり
  てこのわか宮を坊にと思ひきこえさせ
0216【わか宮】-冷泉院
  給に御うしろミし給へき人おはせす
  はゝかたのみなみこたちにて源しの
0217【はゝかたのみなみこたちにて】-冷泉院ノ御母方皆親王ニテ人臣ノ御うしろミなしト也 源氏の執政又例なき也
  おほやけ事しり給すちならねハはゝ
  宮をたにうこきなきさまにしをき」(36オ・262⑤)

  たてまつりてつよりにとおほすになむ
  ありけるこうきてむいとゝ御心うこき給
  ことハり也されと東宮の御よいとちかふ
  なりぬれはうたかひなき御くらゐなり
  おもほしのとめよとそきこえさせ給ける
0218【おもほしのとめよ】-御門ノ御詞
  けに東宮の御母にて廿よ年になり給へ
  る女御をゝきたてまつりてハひきこし
  たてまつり給かたき事なりかしと
  いのやすからす世人もきこえけりまいり
  給夜の御とん(ん
<朱>)に宰相の君もつかふまつり」(36ウ・262⑩)
0219【宰相の君】-源氏

  たまふおなし宮ときこゆる中にも
0220【きさいはら】-藤つほの母后
  さいはらのみこたまひかりかゝやきてたくひ
  なき御おほえにさへものし給へは
  もいとことに思かしつききこえたり
0221【ましてわりなき御心】-源氏
  してわりなき御心にハ御こしのうちも
0222【御こしのうちも】-ミ 皇后行啓乗鳳輿也
  おもひやられていとゝをよひなき心ちし
  たまふにすゝろはしきまてなむ
    つきもせぬ心のやミにくるゝかな
0223【つきもせぬ】-源氏
  雲井に人をみるにつけてもとのミひ
  とりこたれつゝものいとあハれなりみこ」(37オ・263①)
0224【みこ】-冷泉院

  ハおよすけ給月日にしたかひていとミ
0225【いとミたてまつり】-源氏
  たてまつりわきかたけなるを宮いと
0226【わきかたけなる】-源氏ニ似タマヘル也
0227【宮】-藤つほ
  くるしとおほせと思ひよる人なきな
  めりかしけにいかさまにつくりかへて
0228【けにいかさまに】-世ノ人ノ思ヘル事
  かハおとらぬ御ありさまハよにいてもの
  し給はまし月日のひかりの空に
  かよひたるやうにそ世人もおもへる」(37ウ・263④)

【奥入01】山代 呂
  や左伊シ奈やい可せむ/\
  波礼いかにせんなりやしなまし
  宇利多川末天仁や良以シ奈佐いしなや
  宇利多川末宇利多つまてに
【奥入02】文集巻第十 夜聞歌者 宿鄂州
  夜泊鸚鵡州 江秋月澄徹 隣船有歌者
  発調堪愁絶 歌罷継以泣 々声通復咽
  尋声見其人 有婦顔如雪 独倚帆墻立
  娉婷十七八 夜涙似真珠 雙々堕明月」(38オ)

  借間誰家婦 歌泣何凄切 一間一霑中
  低眉竟不説
【奥入03】律哥
  あつまやの末(末=
<朱>)やのあま利の曽のあまそゝき
  われたちぬれぬとのとひらかせ
  かすかひもと左しもあらはこそそのとひらかせ
  のとわれさゝめおしひらいてきませわれやひとつま
【奥入04】鳥かへ行院
  青海波詠 小野篁作也
  桂殿迎初歳 桐楼媚早年 剪花梅樹下」(38ウ)

  蝶鴛画梁辺
  此楽嵯峨天皇御時改平調為盤渉調
【奥入05】保曽呂倶世利 楽名也狛笛右楽也」(39オ)

もみちの賀<墨> 一校<朱> 二校了<朱>」(表表紙蓋紙)